前回に引き続き、中小企業の「親族内承継」における課題と対策を説明します。今回は、分散した株式を買取るための資金調達等について見ていきましょう。※本連載は、島津会計税理士法人東京事務所長の岸田康雄氏と、事業承継コンサルティング株式会社の取締役である村上章氏による共著、『図解でわかる 中小企業庁「事業承継ガイドライン」完全解説』(ロギカ書房)の中から一部を抜粋し、中小企業庁によって策定された「事業承継ガイドライン」を分かりやすく読み解き、「事業承継」の重要性について詳しく探ります。

金融支援の活用で、低利の融資が受けられる

前回の続きです。

 

①分散した株式を買取るための資金調達

 

相続などにより分散した株式・事業用資産の買取り(会社に対する貸付金や未収金の弁済)を行う場合、その取得資金や、これらの資産に係る贈与税・相続税の納税のために多額の資金ニーズが発生する場合があります。

 

後継者に手元資金が不足している場合、借入れによる資金調達を行うことが考えられますが、経営者の交代による信用状態の低下等により、金融機関から借入れをする際に金利等の条件を厳しくされる場合や、十分な額の借入れを行うことができない場合があります。

 

このような場合、中小企業経営承継円滑化法の金融支援を活用しますと、日本政策金融公庫等から低利で融資を受けることや、信用保証協会の通常の保証枠とは別枠の保証を利用することができます。

 

②自社株買いに関するみなし配当の特例

 

株式・事業用資産の集約の方法としては、後継者や中小企業による買取りを行うことが一般的です。

 

しかし、非上場株式を発行会社に譲渡した場合、譲渡対価のうち発行会社の資本金等の額を除く部分(利益積立金相当)について、譲渡益の額や他の所得の額に応じ、みなし配当課税(最高55.945%の累進課税)がかかるため、売主の手取り額が減少し、集約が進まないといった課題がありました。

 

また、後継者以外の相続人にとって、発行会社への売却による相続税納税資金の調達が困難であるとの指摘もありました。

 

そこで、非上場株式を相続した個人が、相続税の申告期限から3年以内に発行会社に相続株式を売却した場合(いわゆる金庫株の活用)、みなし配当課税(最高55.945%の累進課税)でなく、譲渡益全体について譲渡所得課税(20.42%)が適用される特例が設けられています。

 

また、自社株式に係る相続税の額が、相続した財産のうちに占める譲渡した自社株式の割合に応じ、取得費に加算される特例も利用することができます。

株主が株式の売却を拒否した場合の「2つの対応策」

③株式を買取るための会社法上の制度

 

分散してしまった株式を再度集約する方法として、会社又は後継者が株主から株式の買取りを行うことができればいいのですが、その際、通常の売買契約によりますから、株主と交渉の上、任意に買取りを行わざるを得ません(もちろん、株主が売却を拒絶することもあり得ます。)。

 

このような場合の対応策として、次の二つの方法が考えられます。

 

一つは、相続人等に対する売渡請求(会社法第174条)です。これは、あらかじめ定款に定めておくことにより、相続等で株式が移転した場合、会社が当該株式の相続人に対し、会社へ売り渡すよう請求することができる制度です(法人である株主の合併により株主が変更する場合等を含みます。)。ただし、この制度を利用するにあたっては、主に以下の点に留意しなければいけません。

 

●請求期限

相続等があったことを知った日から1年以内に、株主総会の特別決議を経て請求する必要があります。

 

●売買価格

株式の売買価格は当事者間の協議によるが、協議が調わない場合、裁判所に売買価格決定の申立てをすることができます(申立ては売渡請求の日から20日以内に行わなければなりません。)。

 

●財源規制

会社の純資産から資本及び法定準備金等を控除した額(分配可能額)の範囲内でのみ株式の買取りを行うことができます(会社法第461条)。

 

●後継者に対する買取請求の可能性

現経営者について相続が発生し、株式を後継者が取得した場合、非支配株主が主導して会社から買取請求が行われる可能性があります。

 

このとき、買取請求を行うか否かを決する株主総会において、当該後継者は利害関係株主として議決権を行使することができないため、請求するか否かは後継者以外の株主による議決に委ねられることになります。結果として、後継者が取得した株式について買取請求が行われ、支配権を失ってしまうおそれがあります。

 

 

また、名義株の整理も行っておかなければなりません。平成2年の商法改正前においては、株式会社を設立するためには最低7人の発起人が必要であり、各発起人は1株以上の株式を引き受けねばならなりませんでした。

 

そのため、当時設立された株式会社にあっては、設立当時から株主が7人以上存在し、株式の分散が進んでいることが一般的でした。この商法の規定等に起因して、他人の承諾を得て、他人名義を用いて株式の引き受け・取得がなされることがあり、名義上の株主と実質的な株主が異なる、いわゆる名義株が多く発生していました。

 

しかし、このような状況を放置しておくと、まったく見ず知らずの“自称”株主から、 突然株主の権利が主張され、実質的な株主との間で紛争となることがあります。

 

また、将来的に M&A 等を行おうとした場合、名義株主が真の株主であることを主張して譲渡を拒否する、あるいは対価を要求する等、様々な問題が生じ得ます。そのため、事業承継に先立ち、株主名簿の整理を行って株主を確定し、名義株が存在する場合には、名義上の株主との間で合意を結ぶなど、権利関係を明確にしておく必要があります。

 

なお、名義株の株主については、判例上、「名義人すなわち名義貸与者ではなく、実質上の引受人すなわち名義借用者がその株主となるものと解するのが相当」として、形式的な名義ではなく、実質的な株主を基準に判断するものとしています(最判昭和42年11月17日)。

 

そして、所在不明株主も整理しておくべきでしょう。名義株のような原因で株式が分散し、さらに相続が発生するなどして人間関係が希薄化したため、株主名簿上の株主の所在が不明となってしまう事例が頻発しています。

 

所在不明株主が存在する場合、突然に株主権が主張される事態が想定されるほか、株式譲渡の方法で会社売却(M&A)しようとする場合に、全株式を譲渡することができないため、買い手にとっては全株を取得できず、いつ株主権を主張されるかわからないというリスクを負うことになります。その結果、会社売却(M&A)することができないという事態も想定されるでしょう。

 

また、全株主の同意が必要な行為をする場合や、株主総会の招集通知等の手続きを行うためにも、株主の所在を把握しておく必要があることは当然のことです。そのため、現時点での株主を確定し、その所在地や連絡手段を確保しておく必要があります。

 

なお、5年以上継続して会社からの通知が到達しない株主が所有する株式は、一定の手続きを経て会社が処分(競売・売却・自社株買い)することができます(会社法第197条)。この手段をとるには公告・通知といった会社法上の手続きを行わなければなりません。

 

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    本連載は、『図解でわかる 中小企業「事業承継ガイドライン」完全解説』(ロギカ書房)を一部抜粋し、加筆・再編集したものです。

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