「IT・ソフトウェア業界」は14年に過去最多のM&A
今もっとも再編が活発化する9つの注目の業界(IT・ソフトウェア業界、住宅・不動産関連業界、電気工事業界、介護業界、人材紹介・人材派遣業界、物流業界、製造業業界、学習塾業界、業務用食品卸売業界)の現状と、今後の動きについて見ていきましょう。
業界再編が起きるきっかけにはさまざまな要因が関係してきます。ご自身の業界と照らし合わせて参考にしてください。
【IT・ソフトウェア業界】
調剤薬局業界と並んで、今もっとも再編が活発に行われているのがIT業界です。IT業界は第2次業界再編時代の幕開けと言われており、特にソフトウェアの受託開発を手掛ける会社のM&Aが増加しています。2006年には415件のM&A件数となり第1次M&Aブームが来ました。その後リーマンショック時に半減しますが、2014年には過去最多の514件のM&A件数を記録しています。
IT業界は2000年代に入ってから「ITバブルの崩壊」と「リーマンショック」という2度の危機を経験しています。2008年のリーマンショック後は大手メーカーがシステム投資を大幅に控えたため、2次、3次下請けで開発を行っていた企業が相次いで業績を悪化させるという事態に陥りました。そのため、第3の衝撃が来る前に、業績がいいうちに自社を優良企業に売却、もしくは合従連衡でグループ化し相乗効果で体力をつけて将来に備えたいと考えるオーナー経営者が増えています。
IT業界の構造を見てみると、そもそもは大手企業のIT部門として立ち上げられた事業部が独立し会社となった例が多いのですが、そのうち1社で親会社のシステムなどを開発しているのは非効率だということになり、会社の枠を超えてNTTデータをはじめ、富士通、NEC、日立、東芝の大手エレクトロニクス企業に買収されていったという経緯があります。これら大手企業に集約される国内の動きは大体完成し、各大手グループは海外企業とのM&Aに軸足を移しています。
なお、これら大手企業の下に1次下請け会社があり、そうした会社がそれぞれ300~400社の2次、3次下請け会社と取引をしているというのが、この業界の構造です。国内では上位企業が再編されたことで、現在は下位企業の再編が進んでいるという状況です。
買い手のニーズが高い「エンジニア」を抱えている会社
IT業界の不景気は2011年頃に底を打ち、現在は回復傾向にありますが、中小・中堅企業のオーナー経営者が抱える問題は大きく3つあります。人材不足問題と業界の変化のスピード、そして業務のオフショア化(海外の事業所への委託)による受注単価下落と利益率悪化です。
日本M&Aセンターが実施したアンケートの結果、約4割の企業が技術者不足のため受注を控えた経験があり、9割以上の経営者が業界の変化のスピードが速いと感じていると回答しています。技術革新の進化が速いため、なかなか人材育成に力を入れることができず、社員も今よりいい環境があればすぐに転職するという傾向があるため定着率が低いのが特徴です。
また、クラウド技術の進化が多くの企業の仕事の仕方を変えた影響も大きく、海外の子会社や関連事業所に仕事が流れることなどで、これまで大手企業の2次、3次下請けとして順調に仕事を受注していた中小・中堅企業でも特定の会社に依存することができなくなりつつある状況があります。
この業界は、他業界に比べ、規模感の近い会社を買収するというケースが圧倒的に多く、システムエンジニアを一定数抱えていれば、常に買い手からのニーズが高いという特徴もあります。たとえば、地域の異なる2社がM&Aで合併し、ある程度規模が大きくなることで技術と人材を補完し合い、それまでは受注を控えていた案件や外注に出していた仕事を自社でこなせるようになるという相乗効果が見込めます。また、人材の採用と教育の共通化というメリットも考えられます。
ソフトウェア開発会社の合併の他にも、過去にはデータベース開発の会社とネットビジネスの会社の組み合わせや、サイト運営会社と生涯学習サービス会社の組み合わせなどが実現していて相乗効果を発揮しています。
大手6社の統合が行われた「住宅・不動産関連業界」
【住宅・不動産関連業界】
これまで住宅・不動産関連業界でのM&Aは不動産管理業やビルメンテナンス業が主流でしたが、近年、動きが激しくなっているのは地域のパワービルダーが主導する業界再編型のM&Aです。
大きな話題となったのが2013年11月、パワービルダー大手6社による大型統合で誕生した「飯田グループホールディングス」です。6社もの上場企業が一度に統合するのは日本でも初めてで、極めて異例のことです。
戸建て分譲住宅をメインに手掛ける一建設、飯田産業、東栄住宅、タクトホーム、アーネストワン、アイディホームが統合したことで、売上高は単純合計で約7800億円となり業界首位の積水ハウスの約半分に到達。年間販売戸数では2万6000戸以上となり積水ハウスや大和ハウスを大きく上回り、一気に業界内での影響力を強めることになりました。これほどまでの規模のオーナー経営者が集まって一度に統合するのは初めてのことで、まさに業界再編時代の象徴的な事例だといえます。
6社はそれぞれ戸建て分譲やマンション分譲、注文住宅といった既存事業の強みと商品力を生かした事業展開をしながら、経営統合によって以下のような改善を行い、体力強化を進めています。
●土地等の仕入れは、ホールディングがマネジメントして供給過多エリアの発生を防ぎ、グループ間の競合による仕入れ価格の高騰抑止を実現。
●スケールメリットを生かした共同購買による資材調達コストの引き下げや、職人育成や下請け施工会社の確保などにもグループ全体で取り組むことで原価をコントロール。
●プレカットや建材などの内製化を進めることによって価格競争力を強化。
今までは地場でトップクラスのハウスビルダー(10~30億円規模の売上高)の事業承継に伴うM&A、つまりオーナー経営者が60歳を過ぎた頃に株式を譲渡するという話はよくありました。しかし、「6社統合」というのはまったく違う意味を持っています。
「強者連合」によってビジネス自体の質を変えていく
経営が順調な優良企業であり、事業承継問題で困っているわけでもない企業の一国一城の主=ライバルたちが、資本のしがらみやオーナーであり続けるという私欲を乗り越え、資本提携という「決断」ができた背景には、それだけ業界再編にかける熱意が読み取れます。
復興需要、増税のタイミング、2020年東京オリンピック効果などで一時的に好景気を迎えていますが、実際には少子高齢化による人口減少局面がすでに始まっており、今後の住宅需要の先細りは目に見えています。そうした時代に対応し、「企業の存続と発展」のために6社は統合したのです。
しかし、そこには新たなビジョンと大義があります。ただ生き残りのために規模を拡大するのではなく、日本一のシェアを目指すことで「より高品質で低価格」なサービスを提供し、「誰もが当たり前に家を買える時代」を実現するというものです。
目指すのは、「大手=高品質・高価格」の時代から「大手=高品質・低価格」の時代への転換であり、数社が集まり「強者連合」することによってビジネス自体の質を変えていくという業界再編の意義があるのです。
現在、住宅関連業界の上位企業10社のシェアは約22%です。大手上場のマンションデペロッパーが地域トップの注文住宅販売施工会社を買収した隣接業種による地域拡大の事例や、大手リフォーム企業が優良な戸建て住宅建築会社を買収した異業種参入の事例なども増えています。
今後この業界では、LIXILグループやコムシスホールディングス、JKホールディングスなどのような大手企業の経営統合が進行しながらも、そうした動きに乗り遅れないために中堅・大手企業が地域のナンバーワン企業や中小・中堅企業を統合するという動きも活発化していくと考えられます。
また、マンション・ビル賃貸管理業界でも業界再編は着実に進んでいます。安定収入を確保できる管理業務は魅力があることから、規模が小さい会社でも買い手は多く、売り手市場になっています。現在、マンション管理業では上位3社のシェアが18.7%、ビル管理業では上位3社のシェアが8.2%となっています。
なお、隣接業種の土木建築業界に関しては、アベノミクスや東京オリンピック効果で一時的に景気は上向いていますが、本質的には公共投資の増減に景気が左右されるため、国内市場の縮小に伴い大手ゼネコンは民間需要や海外市場にシフトしています。
業界の成熟度が進んでいることから再編の動きはほぼ終了し、企業数が飽和状態にある中小・中堅企業は淘汰の波にさらされ、M&Aで買い手候補を探すのは難しい状況になっています。