成長減速で五つの矛盾を抱える中国・・・日本はどうする?

本連載は、経済産業審議官、内閣官房参与などを歴任した豊田正和氏と、元海上自衛官で北京の日本大使館で防衛駐在官を務めた小原凡司氏の共著書『曲がり角に立つ中国――トランプ政権と日中関係のゆくえ』(NTT出版)の中から一部を抜粋し、成長減速という曲がり角に立つ隣国「中国」と賢く付き合う道を探ります。

矛盾顕在化の局面を迎えている中国

中国は、大きな矛盾を抱えている。成長減速という曲がり角に立つ中国は、矛盾顕在化の中国でもある。五点ほどに整理してみたい。

 

第一は、中国にとっては、中国共産党体制の維持が政府の最大の目的となっている。したがって、人々は監視され、それに反する行動は、内外人を問わず処罰・監禁される恐れがある。二〇一五年七月、一〇〇名を超える人権派弁護士が拘束され、一部が逮捕された。政府は、こうした人権運動が反政府運動となり、体制を揺るがしかねないと心配しているとされる。

 

しかし、中国は発展すればするほど、筆者著書『曲がり角に立つ中国――トランプ政権と日中関係のゆくえ』第2章第2節で述べたように、中産階級を中心に人々が海外へ旅行をする機会が増え、通信機器が発展し、中国外の情報に触れざるをえない。発展すればするほど、人々は体制に疑問を抱くことになる。

 

第二に、中国共産党の最大の支援者は国有企業関係者であり、このため国有企業改革等の急激な構造改革は、容易ではない。しかし、この構造改革を遅らせば遅らせるほど、効率の良い経済はできにくい。二〇一六年、中国が主催したG20の貿易大臣会合では、鉄鋼等の基礎素材の供給過剰が問題となり、市場機能の促進のために有効な行動をとることで合意した。

 

それにもかかわらず、中国の研究機関自身が、たとえば鉄鋼において、五〇%強の企業が不採算企業であると分析発表しているという。中国全体では不採算企業は減少しているとされるが、公式発表とは異なって、むしろ国有企業等に不採算企業が集中している可能性がある。政権は構造改革を進めようとしているが、これに反し現実は、構造改革をいっそう困難にしている。

経済成長の鈍化により、都市の下層階級に蓄積する不満

第三に、共産党に属さない人、都市の下層階級は、経済成長が鈍化すれば成長のパイの分け前が減少し、大いなる不満を持ちかねない。改革をすれば共産党関係者に、改革をしなければ共産党に関係しない人々に、不満がたまることになる。改革をしようとしまいと問題が蓄積する、大きな矛盾を抱えた社会となっている。

 

第四に、中国には世界史の中で二〇〇〇年近く一等国であったという自負があり、「中華帝国復活」の夢を追い求めるDNAがあるとしても不思議ではない。とりわけ経済成長率が低下するとき、国民の不満を和らげるためにも、外交面で中国の存在をアピールする必要が生じる。これが、「新型大国関係」という形で、中国の支配領域の確保・内政不干渉政策を求める結果を呼び、南シナ海での人工島の埋立てにつながっている。しかし、そのこと自体が前オバマ米国政権にとっては認めがたく、その分、米国との摩擦は拡大する。

 

そのうえ、フィリピンにより提訴された中国の南シナ海における領有権が、国際仲裁裁判所に完全否定され、中国の反発を招くこととなっている。米新政権は、イデオロギーより利益を先行するとされ、南シナ海における中国の進出にどう対応するかは明らかではない。

 

一方、大統領選に勝利したトランプは、台湾の蔡英文総統と二〇一六年一二月初旬電話で会談し、中国は強い不快感を表明した。「一つの中国」という一九七九年以来の前例を破ったからである。その後、二〇一七年二月初旬、習近平主席と電話会談をしたトランプ大統領は、「一つの中国」政策を認める立場を明らかにした。しかし、中国にとって、米国の新大統領が予測困難であることに変わりはなく、中国のDNAを素直に発揮できない不確実な存在として影を落としている。

 

第五に、経済構造が、製造業中心型からサービス業中心型に変わるとき、経済成長の鈍化は必至であるが、結果として社会の不安定化も避けられず、政治の緊張感が高まり、安全保障上の攻撃的姿勢もやめがたい。今の体制が続くかぎり、不安定性、予測困難性も続き、ハードランディングの可能性は否定しにくくなっていく。

中国の混乱でいちばん困るのは日本!?

以上、五つの中国の矛盾は、実は日本にとって、他人事ではない。

 

中国が混乱してハードランディングすれば、いちばん困るのは、実は日本だからである。これは、中国に進出している日本企業の利益といった単なる経済問題ではなく、反動として中国の膨張主義が顕著になれば、安全保障問題にもつながっていく可能性が高い。米欧には中国との物理的距離があるが、隣国の日本には、未来永劫、物理的距離がないからだ。影響も、間接的ではなく直接的となる。

 

したがって、曲がり角に立つ中国とどう付き合うのか、中国が、屈折点をうまく曲がるにはどうしたらよいのか、日本は、放っておくべきなのか、うまく曲がるよう手伝うべきことなのか。日本こそが真剣に考えなくてはいけないテーマに他ならない。中国の矛盾を他人事とできないことが、日本の矛盾なのである。

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連載成長減速という曲がり角に立つ隣国「中国」との付き合い方

一般財団法人日本エネルギー経済研究所 理事長

1949年生まれ。1973年通商産業省入省。
OECD国際エネルギー機関勤務を含め、貿易・エネルギー・環境などの分野で幅広い経験を積む。経済産業審議官、内閣官房参与など歴任。
共著書に『エネルギーと新国際秩序』(2014年エネルギーフォーラム)

著者紹介

笹川平和財団 特任研究員

1985年 防衛大学校卒業、1998年 筑波大学大学院(地域研究修士)修了(修士)。
1985年 海上自衛隊入隊後、回転翼操縦士として勤務。2003年~2006年 駐中国防衛駐在官。2006年防衛省海上幕僚監部情報班長、2009年 第21航空隊司令、2011年IHS Jane’s アナリスト兼ビジネス・デベロップメント・マネージャーを経て、2013年1月に東京財団、2017年6月から現職。著書に『中国の軍事戦略』(東洋経済新報社)、『軍事大国・中国の正体』(徳間書店)、『何が戦争を止めるのか』(ディスカバートゥエンティワン)、『曲がり角に立つ中国』(NTT出版)等。

著者紹介

曲がり角に立つ中国 トランプ政権と日中関係のゆくえ

曲がり角に立つ中国 トランプ政権と日中関係のゆくえ

豊田 正和,小原 凡司

NTT出版

未来永劫の“永遠の隣国”中国といかに賢く付き合うか。 中国は高度成長がおわりを迎え、社会に不満が蓄積し、諸外国とは不協和音がひびき、大きな曲がり角に立っている。さらに、米国にトランプ政権が誕生し、従来の枠組みの…

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