今回は、日中のさらなる協力が期待される「エネルギー・環境政策」の問題を見ていきます。※本連載は、経済産業審議官、内閣官房参与などを歴任した豊田正和氏と、元海上自衛官で北京の日本大使館で防衛駐在官を務めた小原凡司氏の共著書『曲がり角に立つ中国――トランプ政権と日中関係のゆくえ』(NTT出版)の中から一部を抜粋し、成長減速という曲がり角に立つ隣国「中国」と賢く付き合う道を探ります。

アジアでの拡大が予想される原子力は安全性確保が課題

前回の続きです。

 

第四は、原子力の安全性確保策である。

 

原子力はゼロエミッションであり、気候変動対策として期待されるのみならず、準国産エネルギーとして位置付けられ、エネルギー安全保障に貢献することから、日中双方にとって重要な基幹エネルギーである。しかし、二〇一一年三月の福島第一原子力発電所の事故により、原子力の安全性への懸念が高まったのは日本だけではない。

 

中国も含めアジア全体である。原子力の安全性を高めるだけではなく、リスクはゼロにはならないという観点から、事故が起きたときの対応についても協力していく必要がある。アジアで再び原子力発電所の事故が起きて深刻な事態になれば、それこそ信頼の回復は困難化する。

 

原子力の安全性の問題は、一国の問題ではなく、アジア全体の問題、世界全体の問題である。そのためには、福島事故の教訓を共有しつつ、安全技術、安全スキーム、発電事業者や国民の安全文化などの面においてベストプラクティスを共有し、互いに学んでいくことが重要である。ここでも、今後、原子力発電が拡大するであろうアジアにおいて、日中が共同イニシアチブを発揮することが期待されている。

中国のCO2排出量の問題には、日本も広範囲な協力を

第五に、気候変動・環境対策である。

 

気候変動対策は地球規模の問題であり、一国で解決できる問題ではない。中国は、いまや世界最大の温暖化ガスの排出国であり、大気汚染などの公害問題もあることから、政府を挙げて真剣に取り組み始めている。そうは言っても、解決は容易ではない。中国は、経済成長を減速させたとは言え、六%を上回る成長を続けている。二〇三〇年近くまで、温暖化ガスの排出は増え続けるだろう。これも、技術のみならず、政策スキーム、行動文化が重要である。

 

先に述べたように、中国は最近時点でも、GDP当たりのCO2排出量において、日本と比べ五・七倍の効率の悪さを示している。広範囲な協力が期待されよう。むろん、このほかに伝統的な大気汚染などの環境対策がある。日本は一九六〇年代から一九七〇年代にかけて大いに苦しんだが、いまやこれを克服している。それは技術だけではなく、社会システムの問題でもある。

 

第六に、アジアワイドのパイプライン・ネットワークや電力網の建設である。

 

中国は東アジアの中央部に位置し、隣国とは天然ガスのパイプラインを敷き、電力網も整備しつつある。日本は東アジアの端にあり、アジアのエネルギー・ネットワークとつなぐのは容易なことではない。しかし、中長期的には、諦めることはない。海底パイプラインや海底電線敷設コストも、今後、低下するであろう。

 

また、日本企業として、アジアに発電事業者、ガスパイプライン事業者として進出し、エネルギー・ネットワーク設立に関与していくことは十分可能であろう。

本連載は、2017年7月6日刊行の書籍『曲がり角に立つ中国――トランプ政権と日中関係のゆくえ』から抜粋したものです。その後の改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

曲がり角に立つ中国 トランプ政権と日中関係のゆくえ

曲がり角に立つ中国 トランプ政権と日中関係のゆくえ

豊田 正和,小原 凡司

NTT出版

未来永劫の“永遠の隣国”中国といかに賢く付き合うか。 中国は高度成長がおわりを迎え、社会に不満が蓄積し、諸外国とは不協和音がひびき、大きな曲がり角に立っている。さらに、米国にトランプ政権が誕生し、従来の枠組みの…

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