本連載は、株式会社アイユートの代表取締役で、中小建設業専門の財務・原価コンサルタント、経済産業省後援ドリームゲート・アドバイザーも務める服部正雄氏の著書、『小さな建設業の脱! どんぶり勘定 事例でわかる「儲かる経営の仕組み」』(合同フォレスト)の中から一部を抜粋し、建設業の生死を分ける「資金繰り」について解説します。

支出が先に発生すると、手元現金が枯渇してしまう

建設業のお金の流れには、2つのパターンがあります。

 

①支出が先に発生するパターン

②先にお金が入り、支出が後になるパターン

 

①は、ゼネコンなどからの下請工事を請け負う会社に多く見られます。自社で抱える職人さんに支払うお金については、社員の給与と同じように、同月内の支払いが原則になります。また、材料費や協力業者さんに支払う外注費は、翌月払いが多いです。つまり、仕事を実施してから最低でも1カ月分のお金の立替えが、入金0円の状況で発生するわけです。

 

しかし、元請先からの工事代金の回収には時間がかかります。たとえば、元請先が「20日締めの翌月末日払い」という支払い条件の場合、最短でも40日の据え置き期間があります。

 

しかも請求額の査定によっては、満額支払ってもらえるとは限りません。元請先の中には、工事が完了しても、保留金と称して支払い総額の1割程度を、3カ月ほど保留する会社もあります。これは、下請会社の工事に問題が発生したときに備えるためです。

 

さらに元請先によっては、4カ月程度の手形や電子記録債権(手形・売掛債権の問題点を克服した新たな金銭債権)で支払われ、現金化するまでに日数を要するケースもあります。もし、手形の支払期日前に現金が必要な場合は、期日までの日数分の金利を割引料として銀行や金融業者に支払う必要があり、そのためのコスト負担は避けられません。

 

どれだけ手元現金を確保することが厳しいか、おわかりになるかと思います。

中小建設業は「工事ごと」に資金繰り表を作成しておく

それに対して②の「先にお金が入り、支出が後になるパターン」は、住宅会社やリフォーム工事などの建設会社に多く見られます。発注主と直接契約を結ぶため、たとえば、契約時に工事代金の3分の1を受け取り、中間金として上棟時に3分の1を回収することも可能です。工事が完了すれば、すぐに住宅ローンなどで残金が回収できます。

 

一方、支払いの面では、完成時に協力会社などへの未払い金が半分くらい残っている場合があります。なかには、先に入金があるため、利益が上がったと勘違いされる経営者もおられます。

 

また、資金繰りの厳しい住宅会社では、契約金を先に完成した別の工事の支払いに充てるため、利益度外視で営業に契約ノルマを与えるケースもあります。

 

以上が、おおまかなお金の流れです。中小建設業の場合は、工事のお金の流れを把握し、工事ごとに資金繰り表を作成しておくことが重要です(以下の図表を参照)。

 

[図表1]①工事別支払管理表

 

[図表2]②工事別支払管理表

 

[図表3]③工事別入金予定表

 

[図表4]④工事別支払予定表

 

<改善事例その1 元請工事の受注比率を増やすこと>

 

下請工事の施工を中心に成長してきたA社では、元請先からの回収サイトと協力業者などへの支払いサイトのズレから生じる資金不足が慢性化し、銀行借入の増額などでしのいでいました。

 

そこで改善策として、住宅の施工販売を徐々に増やすことにしました。時間はかかりましたが、住宅施工販売の売上比率が伸びるにつれ、少しずつ資金繰りが楽になっていきました。

 

このように、元請工事の受注比率を増やすことで、施主様との契約条件によっては、工事着工前に契約金が入ります。上棟時にも入金があり、完成後すぐに住宅ローンから入金になるなど、支払いよりも入金が先行する比率が高くなり、悪化していた資金繰りの好転が見込まれます。

小さな建設業の脱! どんぶり勘定 事例でわかる「儲かる経営の仕組み」

小さな建設業の脱! どんぶり勘定 事例でわかる「儲かる経営の仕組み」

服部 正雄

合同フォレスト

計数管理と利益意識の向上が、会社経営を救います! 自社の数字を理解し、利益を必ず確保するという意識を高めて、粗利益率や債務超過を改善。中小建設業ならではの資金繰り・利益計画など、儲けるための考え方を、実例を使っ…

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