今回は、浦和高校の生徒が「日本の電力問題」を議論する意義とは何かを見ていきます。※本連載は、元県立浦和高等学校主幹教諭で、現在は埼玉県庁教育局の高校教育指導課で指導主事を務める岡田直人氏による著書、『名門・県立浦和高校の白熱エネルギー講座』(エネルギーフォーラム)より一部を抜粋し、名門「県立浦和高校」の生徒による、日本の電力問題へのアクティブ・ラーニングの実践について見ていきます。

議論を通し、社会を支えるリーダーとしての意識を学ぶ

埼玉県立浦和高等学校(以下、浦高)では、2年生の「総合的な学習の時間」(週1時間)において、教師が自由に設定したテーマごとに希望する生徒が集まり、そのテーマに沿った課題研究と論文作成を行っている。

 

大学レベルの数学を探究する講座、プロ棋士に学ぶ囲碁将棋の講座、スポーツ科学を探究する講座など、実にさまざまなテーマで、普段の授業では扱いきれない知的な探究活動を行う。生徒、教師ともに大変充実した時間である。

 

したがって、電力問題についても、クラスの枠を取り払って、浦高2年生の中から、このテーマに関心のある生徒を募ることができる。この「総合的な学習の時間」を活用して、手探りながらも1年間、電力をテーマに取り組んでみることにした。

 

ただし、電力問題といってもあまりに幅広く、教師とはいえ担当教科が英語の筆者(岡田直人、現在は埼玉県立総合教育センター指導主事)だけでは、このテーマには到底太刀打ちできそうにない。せっかく関心のある生徒を集めたところで、大して内容に深みのない課題研究に終わってしまっては、生徒の問題意識を喚起することができず、あまりにももったいない。

 

そこで、筆者の取り組みに賛同し、ともに1年間この講座を担当してもらえそうな同僚教師をパートナーとして探すところから始めた。複数の教師でチームを組み、ひとつの講座を担当することはあまり例がなかったので、1年間を見通した課題研究の取組の案を作成し、この講座を通して何がやりたいのか、生徒に何を考えさせたいのかを明確に示して協力を求めた。

 

そこで、このプロジェクトに大きな関心を示してくれたのが、物理担当の長瀨義行教諭と加藤大士実習助手であった。

 

長瀨教諭は、「科学する心」「学問する意義」を生徒とともに追求している熱血漢であり、加藤実習助手がそれを支えている。浦高の物理では、「エネルギーとは何か」から始まり、放射線や発電についても実験を通して深く学ぶ。

 

放射線と放射能の違いに対する理解もあいまいな、筆者のような素人には、電力問題を考えるにあたり物理的な視点からのアプローチが不可欠であった。

 

一方の長瀬教諭も、福島第一原発の事故を経て、電力に関する問題を「物理」の枠を超え、生徒たちに真剣に考えさせる場を持ちたいと常々考えていたようであった。

 

こうして、長瀨教諭との議論の末、講座「徹底研究!日本の電力問題」の目標と取り組み内容の大枠が固まり、2015年4月、浦高2年生に対して、以下のようなメッセージとともに参加者を募った。

 

〜〜〜

 

「3・11」を経験した日本は、今後どのような電力・エネルギー政策を取るのか? 世界中が注目をするなか、今年(2015年)夏をめどに、政府は2030年に向けた電源構成案(エネルギーミックスを策定します。

 

2030年といえば、君たちが、まさに社会の担い手となる近未来。1年の講座を通して、この近未来におけるエネルギーミックスの問題、そして日本と世界の電力問題に徹底的に向き合ってみませんか?

 

原発や再生可能エネルギーの利点や問題点について、多角的に学び、議論することを通して、「持続可能な社会」を支えるリーダーとしての見識と自覚を深めよう。

 

担当は、岡田(英語)、長瀨(物理)、加藤(実習助手)です。このような教科の枠組みを超えた講座は、私たち教師にとっても初の試み。電力のあり方について、ともに貪欲に学んでいきましょう!

 

〜〜〜

文系、理系関係なく、未来志向で議論を深める

募集の結果、文系生徒6名、理系生徒4名の計10名が講座「徹底研究!日本の電力問題」に参加することとなった。

 

文系生徒のほうが多かったのは少し意外であったが、電力やエネルギーについて考える際には、文理融合的なアプローチが不可欠だと思っていたので、まさに理想的な構成であった。ちなみに前述のとおり、この講座を担当する教師自身も、英語科の筆者、物理科の長瀨教諭、加藤実習助手の3名であり、これまた文理融合の布陣となった。

 

こうした生徒も教師も文理融合で進める学びは、教科ごとに展開される普段の授業ではなかなか実現し得ないことであり、「総合的な学習の時間」だからこそできることであろう。

 

しかし、これからの学校における学びは、唯一の正解がない問いに対して教科の枠を超えて議論し、知恵を出し合うことを中心に展開される、いわゆる「アクティブ・ラーニング」へと確実に移行していくことであろう。

 

さらには、ユネスコ(国際連合教育科学文化機関)が提唱するESD(Education for Sustainable Development:持続可能な開発のための教育)の概念には、環境分野における教育の一環としてエネルギーに関する学習活動も含まれている。

 

一方、「3・11」後の現実に即した電力・エネルギー問題に関する議論は、日本の学校教育の場では残念ながら活発になされているとはいいがたい。だからこそ、1年をかけて電力問題という大きな問いに生徒も教師も大いに議論し、学び合うことには、大きな意義があるはずだと確信している。

 

[写真]浦高の正門

名門・県立浦和高校の白熱エネルギー講座

名門・県立浦和高校の白熱エネルギー講座

岡田 直人

エネルギーフォーラム

日本の電力問題を高校生が徹底研究! 文部科学省SGH(スーパーグローバルハイスクール)指定校“公立の星”が取り組んだ、アクティブ・ラーニングの実践を紹介します。

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