前回は、「立ち退き」問題が不動産評価額に及ぼす影響を説明しました。今回は、立ち退き問題の予防にも有効な「定期借家」について見ていきます。

たった一人残った賃借人が「査定価格抑制」の原因に

前回の続きです。

 

査定価格がそこまで抑えられたのには、理由があります。この土地には建物が立っていて、そこに賃借人が一人残っていたのです。

 

エンドユーザーであれ不動産のプロであれ、この土地を購入した暁には建物は取り壊す前提です。賃借人には立ち退いてもらって、どこに越してもらう必要があります。この賃借人の存在がマイナス要素の一つと評価された結果、査定価格が抑えられてしまったのです。

 

実際にはこのほかにも、改めて測量する必要があったりするなど、ほかにもマイナス要素が指摘されました。それらを含めていくつかのマイナス要素があったばかりに、この土地の所有者は足元を見られてしまったわけです。

 

立ち退きの問題を解決するには、テナントや入居者など建物の賃借人にそれを承諾してもらう交渉と立ち退き料という金銭が必要になります。したがってこの問題は、それを売り手側で負担するのか買い手側で負担するのかという問題に置き換えられます。

 

この例ではそれを買い手側で負担するという前提で、査定価格がその分、抑えられたということです。しかしやりようによっては、この査定価格は抑えられずに済んだはずです。つまり、この土地を相場通り、エンドユーザー相手であれば坪当たり320万~330万円程度、不動産のプロ相手であれば270万円程度と評価される方法がある、ということです。

定期借家なら、確実に建物の引渡しが行われる

それは、定期借家の利用です。借地借家法という法律に基づく契約形態で、建物の賃貸借契約の期間を1年とか3年とか一定期間に限ったものです。

 

この定期借家を利用して建物賃貸借契約を交わしておけば、そこで定めた一定の契約期間が終了した段階で建物の所有者はそれを、確実に明け渡してもらえます。立ち退き料はいりません。

 

立ち退きの問題が発生するのは、建物賃貸借契約を昔ながらの普通借家の形態で結んでいるからです。

 

普通借家の場合、賃借人に立ち退いてもらうには、「正当事由」と呼ばれる裁判例の積み重ねのなかで認められてきた合理的な理由が不可欠です。その上で立ち退き料も求められます。定期借家と違って、正当事由も立ち退き料も必要なのです。

 

この定期借家という制度が創設されたのは、2000年3月です。賃貸住宅のような居住用の建物の場合、それ以前に結ばれた建物賃貸契約を定期借家に切り替えることはできませんが、テナントビルのような事業用の建物であれば、それは可能です。

 

継続して入居しているテナントの場合、賃料の額は下げざるを得ないでしょうが、昔ながらの普通借家は切り替えられるタイミングを見計らって定期借家に変更しておくのが得策です。

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    本連載は、2016年6月29日刊行の書籍『はじめてでも高く売れる 不動産売却40のキホン』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

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    宮﨑 泰彦

    幻冬舎メディアコンサルティング

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