今回は、発展途上国への支援、「ODA(政府開発援助)」について見ていきます。※本連載は、大阪府の有名高校の教諭を歴任し、現在は大阪府立天王寺高等学校の非常勤講師を務める南英世氏の著書、『意味がわかる経済学』(ベレ出版刊行)の中から一部を抜粋し、経済学の基礎知識をわかりやすく説明します。

「二国間援助」と「多国間援助」が存在

発展途上国を支援するために、現在、さまざまな機関が資本や技術の援助をしています。そのなかでもとくに大きな役割を果たしているのが、ODAです。ODAには、相手国を直接援助する二国間援助と、国際機関に拠出することによって発展途上国を支援する多国間援助があります。

 

多国間援助をする国際機関としては、IBRD(国際復興開発銀行)、IDA(第二世界銀行)、DAC(開発援助委員会)、アジア開発銀行などのほか、最近、中国が主導することで話題になったアジアインフラ投資銀行(AIIB)があります。そのほか、国連児童基金(UNICEF)、国連開発計画(UNDP)、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)、国連世界食糧計画(WFP)、国連食糧農業機関(FAO)などの国連の機関も発展途上国を支援しています。日本はこうした国際機関に対して年間3400億円のODA予算(2014年)を組み、多国間援助をしてきました。

 

一方、二国間援助には贈与政府貸し付け(=円借款)があります。贈与は無償資金協力や技術協力など、いずれも無償で行なわれますが、政府貸し付けは、将来、返済しなければなりません。ただし、政府貸し付けをしても、相手国が返済できない場合は債務免除をすることもあります。二国間援助として日本は、年間6400億円(2014年)を投じています。

日本の2014年のODA総額=国民一人あたり約1万円

これまで日本のODAはアジアを中心に行なわれてきました(図表1)。これは日本のODAが第二次世界大戦に対する戦後補償の意味合いから出発したことと関連しています。また、アジアへの援助が多いのは、ダム、発電所、道路、鉄道、港湾、空港などの経済インフラの援助を行なうことによって、日本企業が進出しやすいようにする、いわば「露払い」の意味もあります。最近では、中東やアフリカ諸国への援助も増えています。日本のODAを一元的に行なうための機関として設けられているのがJICA(国際協力機構)です。

 

日本のODA援助額は、1991~2000年まで世界1位でした(図表2)。しかし、バブル経済の崩壊後、税収が落ち込んだことなどからODAは大きく削減されました。一方、2001年以降、アメリカのODAが急増しています。これは、2001年にアメリカ同時多発テロ事件が発生し、貧困がテロの温床になるとの認識からODAを増額させたからです。

 

日本政府は2015年、従来のODA大綱を見直し、新たに開発協力大綱を定めました。これは従来の国際貢献に加えて、資源確保や国家安全保障戦略など、「国益の確保に貢献する」ことを明確に打ち出した点に特徴があります。2014年のODA総額は約92億ドルで、国民一人あたり年間約1万円の負担でした。財政赤字に苦しむ日本ですが、ODAは軍事力に代わる国際貢献の有力な手段であるということを忘れてはなりません。

 

[図表1]ODA受け取り国ベスト3

(資料:外務省)
(資料:外務省)

 

[図表2] 主要国におけるODA実績の推移

(資料:外務省)
(資料:外務省)

本連載は、2017年5月25日刊行の書籍『意味がわかる経済学』から抜粋したものです。最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

意味がわかる経済学

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南 英世

ベレ出版

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