減らして早くもらうか、遅らせて増やすか…年金受給方法は「表裏一体」

原則65歳から受け取る公的年金は、受給開始を早める「繰上げ」と、遅らせる「繰下げ」の選択肢が用意されています。

65歳より前に受け取る繰上げ受給の場合、1ヵ月につき0.4%(昭和37年4月1日以前生まれの人は0.5%)減額し、65歳よりあと(66歳以降)に受け取る繰下げ受給の場合、1ヵ月につき0.7%増額します。公的年金は長生きリスクに備える保険としての性質を持つので、高齢期に働けなくなったときの生活保障となります。

あらゆる場面で「多様化」という言葉が使われていますが、年金の受け取り方も多様化しているのです。さまざまな筆者の相談者様からの話を聞くと、繰上げ受給・繰下げ受給のそれぞれの主なメリット、デメリットは次のとおりといえます。

減額してでも早く受け取る「繰上げ受給」

〇メリット

・元気なうちに自由にお金を使いたいという希望に沿う

・資産形成の原資とし、増やす選択肢が持てる

・自身の健康状態や、身内が短命だからといった傾向を踏まえ、早めに払ってきた年金保険料を回収できる

〇デメリット

・一生涯減額した年金額となる

・長生きした場合、資金が枯渇する可能性がある

・65歳よりも前にケガや病気となり、障害年金の請求を検討する場合に制限がかかることがある

遅らせても増額して受け取る「繰下げ受給」

〇メリット

・年金のみの生活になってから、増えた年金額を生涯受け取れる安心感

・長生きすると総受給額が多くなる

〇デメリット

・繰下げ受給してすぐに亡くなった場合、受け取れる総額が少なくなる

・介護保険料等や税金が高くなる

70歳まで働き、繰下げ受給を選んだ夫

Aさんは、65歳以降もパート勤務で働いていました。現役時代は、小規模の製造業に勤めており、平均的な給与は月27万円ほど。転職の際に生活が苦しく、国民年金を未納にしていた期間もあり、65歳からの年金額は144万円(月額12万円)と少なめです。妻の年金を含めても世帯で月額19.5万円にしかなりません。

現在は物価が上昇していることから、貯蓄が少ないAさんとしては老後に不安が募ります。「妻に苦労をさせないためにも少しでも長く働き、年金は遅らせて増やそう」と決心しました。

現役時代、給与が思うように上がらなかったことや、転職の際に収入が少ないことで妻に苦労を掛けてしまったと、負い目を感じていたAさん。いっそう強く、「老後はお金で困ることのないように」という思いがあったのです。

70歳、42%増額に…喜んだ直後の想定外

Aさんは、頑張って70歳まで働き続けることができました。70歳以降も勤務日数を減らしながら75歳までは働きたいと考えています。

65歳から70歳までの5年(60月)繰り下げたことで、年金額は42%アップしました。Aさんの年金額は144万円から200万円超へアップ。Aさんは胸をなでおろしました。

「人生100年」と考えるなら、残された時間はあと30年。妻とともに穏やかな老後を歩む未来を描いていた矢先、想定外の事態が起こります。

70歳になり、増額された年金の受け取りが始まってすぐのことでした。妻が突然の病で倒れ、医師から余命宣告を受けたのです。妻のためにと長く働き続けてきたAさんの願いも虚しく、妻は余命宣告からわずか3ヵ月後に亡くなりました。