リモートワークを前提にした暮らしで、もし会社の制度が変わったら?

健太さんのように、コロナ禍を機に働く場所の自由度が高まった人は少なくありません。

国土交通省「テレワーク人口実態調査」によると、雇用されて働く人のうちテレワークをしたことがある「雇用型テレワーカー」の割合は、2019年度の14.8%から2021年度には27.0%へ上昇しました。最新の2025年度調査でも25.2%となっています。

一方、企業の働き方は変化しています。たとえば、LINEヤフーではリモートワークを活用した働き方を進めてきましたが、2026年4月から、週3日の出社を原則とする働き方へ段階的に移行しています。

テレワークそのものがなくなったわけではありませんが、企業の方針によって、求められる出社頻度や働き方が変わることもあります。

健太さん夫婦も、決して無計画に移住したわけではありません。

住宅ローンを完済して新たなローンは抱えず、移住後も1,500万円の預貯金を確保。60歳で退職金2,000万円を受け取り、その後も年収500万円程度で65歳まで働く。65歳からは年金を受け取りながら暮らす――。そんな老後の見通しを立てていました。

ただ、その計画を支えていた前提の一つが、「リモートワークなら65歳まで働き続けられる」ということだったのです。

60歳で辞める? 65歳まで働く? お金と「これからの時間」をどう考える

では、健太さんは「通勤が大変だから60歳で辞める」と決めてしまってよいのでしょうか。

健太さんの公的年金の見込額は、60歳で退職した場合、年間で約211万円。65歳まで年収500万円で働き、厚生年金に5年間長く加入すれば年約225万円です。妻の年金は年間で約110万円です。

年金額の差は年約14万円ですが、家計への影響がより大きいのは60歳からの5年間です。65歳まで働けば額面で合計2,500万円の給与収入がありますが、60歳で辞めれば、65歳までは主に退職金や預貯金を取り崩して暮らすことになります。

そこで、夫婦の家計の推移を試算しました。現在月約35万円の生活費(車の維持費は別)を、年金生活に入ったら月30万円に抑える前提です。60歳で辞める場合は、その時点から30万円に抑えます。それでも、60歳で辞めるケースでは75歳前後で預貯金が底をつく一方、65歳まで働くケースでは90代半ばまで維持できる試算となりました。

なお、この試算は、退職時期による家計への影響を比べるため、生活費や年金額など一定の条件を置き、車の買い替えや住まいの修繕といった大きな出費は含めずに単純化したものです。

だからといって、選択肢は「往復約5時間かけて65歳まで通う」か「60歳で完全に辞める」かの2つだけではありません。60歳以降は収入が下がっても自宅近くやリモートでできる仕事を探す。支出を見直して働く期間を短くする。必要なら、住まいを含めて再検討することも選択肢です。

健太さん夫婦に必要なのは、これまでの選択を後悔することではなく、変わった前提に合わせて生活設計を組み直すことです。

会社の制度は変わるかもしれません。一方、50代で選んだ住まいや、その先の暮らしは簡単には変えられません。「何歳まで働けば、いくら貯まるか」だけでなく、前提が変わったときにどんな選択肢があるのかまで考えておくことが、50代からの生活設計では大切です。

三原 由紀
プレ定年専門FP®

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