「終身」と謳う老人ホームだからといって、どのような状態になっても最期まで同じ施設で暮らせるとは限りません。本記事では、入居したわずか数ヵ月後、母親の認知症が急激に進行して「当施設ではこれ以上対応できません」と退去を求められた家族の事例をもとに、老人ホーム選びで見落としやすい「終身契約」の注意点について、元介護施設職員でFPの武田拓也氏が解説します。
施設長「申し訳ないのですが…」年金月15万円・78歳母を入れた「終身契約」の老人ホーム。入居から3ヵ月で〈まさかの退去宣告〉に54歳娘が絶望【元介護施設職員のFPが解説】
頻繁に財布を紛失する〈年金月15万円〉78歳母…54歳娘を襲う「介護疲れ」
会社員のミキさん(仮名・54歳)は、母・カズコさん(仮名・78歳)のことで数年前から頭を悩ませていました。
父はすでに他界しており、カズコさんは一人暮らしです。年金収入は月15万円ほど。決して豊かな暮らしではありませんが、持ち家だったこともあり、それまでは何とか一人で生活できていました。
ところが70代後半になると、「財布を頻繁になくす」「家の片付けができなくなり、散らかっている」「同じものを何度も買ってしまう」といった異変が少しずつ目立つようになります。
病院を受診した結果、軽度の認知症と診断されました。ミキさんは仕事をしながら週に何度も実家へ通い、食事を届けたり、掃除をしたりしました。
通院にも付き添うようになって、生活リズムの変化から心身ともに疲弊していました。
「お母さんの家から煙が!」ボヤ騒ぎをキッカケに施設入居を決意
「お母さんの家から煙が出ている!」
ある日、近所の人からミキさんの携帯電話に連絡がありました。ミキさんが慌てて駆けつけると消防車が止まっていました。
母が鍋を火にかけたまま忘れてしまい、台所でボヤを起こしていたのです。幸い、大きな火災にはなりませんでした。
「次は人を巻き込むかもしれない……」
ミキさんは、この出来事をきっかけに、カズコさんの自宅での生活は限界だと思いました。
すぐさまカズコさんが入居できる高齢者施設を探し、見つけたのが「認知症対応」「終身利用」を掲げる老人ホームでした。しかし、施設の月額費用は約22万円。カズコさんの年金は月15万円であるため、毎月7万円ほど不足してしまいます。
「これも親孝行」と思ったミキさんは、少なくない金額ですが不足分の7万円を自分の貯蓄から負担することにしました。
さらに、入居準備のための家具・生活用品、引っ越し費用なども必要でした。それでもミキさんは、「これで母も安心して暮らせる。私もようやく介護中心の生活から解放される」と考えていました。
「終身利用」という言葉も大きな安心材料でした。ところが、その安心はわずか3ヵ月で崩れます。