「子や孫のためになにかしてあげたい」というのが親心ですが、悪気なく金銭援助をしても、受け取る側が好意的に受け止めているとは限りません。さらに、その援助の原資が「老後資金」であった場合、結果的に自分の生活を苦しくしてしまう可能性もあります。本記事では、孫のために100万円を援助した74歳母と48歳息子の事例を通して、「親子のすれ違い」が起きる原因と“健全な金銭援助”を行うポイントについて、CFPの石川亜希子氏が解説します。
「ありがとうの一言もないの?」…年金13万円・74歳女性が「孫の学費100万円」を援助。48歳息子から放たれた〈非情な本音〉【CFPの助言】
「恩着せがましいなら送るな」…母の厚意を突き返す48歳長男の“本音”
「忙しいのはわかるけど、ありがとうの一言くらいあってもいいじゃない」とユキコさんがいうと、シュウヘイさんは「直接伝えようと思ってたんだよ」と言い訳しつつ、こう続けました。
「わざわざお礼を催促するなんて、そんなに恩着せがましいなら別に送ってくれなくていいのに」
ユキコさんは言葉を失いました。電話を切ったあとも胸のざわつきは収まりません。
しかし、シュウヘイさんの言い分もあります。ユキコさんは昔からよかれと思って、いろいろなものをシュウヘイさんのもとに送りつけていますが、その多くは手作りのティッシュケースや子ども服、旅先で買ったユニークな置物など、正直、もらっても扱いに困るものばかりでした。
また、悪気はないものの、妻の出産後には「母乳が足りないのかしらねえ」、孫の成績については「あら、もっといいかと思ったわ」と、ひと言多いところもありました。たびたびお金を渡してくることも、シュウヘイさんにとってはプレッシャーだったのです。
ユキコさんにとっては、善意から援助したつもりではあるものの、結果としてすれ違いを生んでしまいました。
【CFPの助言】「善意の援助」が自身の老後を脅かすことも
このようなすれ違いは、どうして起こってしまうのでしょう。原因として考えられるのはまず、「目的・金額・タイミング」が共有できていない点です。「してあげたい」気持ちと「求められている援助」が一致していなければ、双方が納得できる形にはなりません。
また、お金の援助には、本人が気づかないうちに「期待」が含まれていることもあります。「ここまでしたのだから、これくらいは返してほしい」という思いが無意識に混ざってしまうと、受け取る側にとっては重く感じられ、すれ違いの一因となり得ます。
しかし、今回のケースで最も問題なのは、ユキコさんが老後資金を取り崩して援助している点です。
総務省の2025(令和7)年の家計調査報告(※)によれば、65歳以上の単身無職世帯における支出の平均額は約16万1,000円となっています。年金受給額が月約13万円のユキコさん、平均的な暮らしをしていても月に約3万円の赤字です。赤字額は年間で36万円、15年であれば540万円にのぼります。
老後資金は、これからの生活費や医療費、介護費用に備えるためのものです。また、家の修繕費や家電の買い替えなど、このほか突発的な支出も発生します。金銭援助をはじめ、まとまった支出をする際には、「今後の自分の生活に影響はないか」を長い目で見ることが大切です。
孫の進学を応援したいという気持ちは自然なものですが、金銭援助は無理のない範囲で行うのが基本です。
また、生活費や教育費といった名目で仕送りしたつもりでも、受け取った側がそのつもりで受け取っていない場合、年間110万円を超えてしまうと「贈与」とみなされて課税対象となってしまう場合があります。そのため、今回のようになにもいわずに振り込むのではなく、使途を明確にしておくことをおすすめします。