「帰る場所」をなくした母、仕事のない娘

高齢の母親にとって、環境の変化が想像以上にストレスだったようです。フミエさんは新しい生活に馴染めず、他の入居者との交流も拒み、部屋に引きこもりがちになってしまいます。

面会のたびに「あの家に帰りたい」と泣きつかれるものの、実家はすでに他人の手に渡っています。フミエさんに「お母さん、ごめんなさい……。家はもうないの」と告げるたびに、アキコさんの心は引き裂かれそうになりました。

さらに、アキコさん自身にも厳しい現実が待ち受けていました。「介護が落ち着いたらすぐに再就職できる」と考えていたものの、50代の転職市場は厳しく、思うように職が決まりません。

収入が途絶えたまま、気がつけば資産は激減。実家を売却した資金があるとはいえ、フミエさんの施設費用で毎月確実に目減りしていきます。自身の老後資金はおろか、日々の生活さえ脅かされるようになり、親子ともに“八方塞がり”の状況に陥ってしまったのです。

「あのとき、会社を辞めなければ」「実家を売る以外の選択肢があれば」と、溢れ出るのは後悔の言葉ばかりでした。

「介護離職×実家売却」はその後の選択肢を狭める

アキコさんの事例には、多くの現役世代が陥りがちな「2つの誤算」があります。

1.介護離職は「家計破綻」の入り口

介護のために仕事を辞めると目先の時間は確保できますが、月々の収入だけでなく、将来もらえる自身の年金まで減少してしまいます。また、介護が落ち着いたタイミング(50代など)からの再就職は容易ではなく、一度手放した「安定収入」を取り戻すのは至難の業です。

2.不動産(実家)の売却は「最終手段」

実家を売却するということは、「引き返せない片道切符」を買うことと同義です。今回の事例のように万が一、施設が合わなかった場合は「自宅へ戻る」という選択肢を自ら失うことになります。