老齢年金は通常65歳から受給開始ですが、長生きすることを想定し、年金額を増やそうと「繰下げ受給」を検討している人もいるでしょう。しかし、“予想外の事態”が発生した場合、繰下げ受給のルールによって、その恩恵を思うように受けられないケースも存在します。年金の増額を待っていた68歳女性の事例をもとに、社労士FPの五十嵐義典氏が「繰下げが打ち切りになるケース」とその注意点について解説します。
年金事務所「これ以上、繰下げできません」…〈年金42%増額〉を狙った68歳女性が絶句。夫の急逝で直面した「遺族厚生年金」の想定外のルール【社労士FPが解説】
68歳5ヵ月で受給開始か、65歳まで遡るか…“損をしない”合理的な選択
アケミさんが68歳5ヵ月の現時点から繰下げ受給をする場合、老齢基礎年金と老齢厚生年金はそれぞれ0.7%×41ヵ月=28.7%増額した金額で受け取ることになります。増額後、老齢基礎年金は103万円、老齢厚生年金は58万円となります。一方で、いずれも繰下げをせず、65歳まで遡って「65歳開始」として受給することも選択できます。
ではアケミさんの場合、どちらを選んだほうが合理的なのでしょうか。
この点、老齢厚生年金を65歳受給開始とすれば、繰下げ分の増額は当然ありません。一方で、繰下げ受給を選んだ場合は、繰下げ増額分も含め、遺族厚生年金との調整が生じます。
つまり、老齢厚生年金が繰下げで増えても、その分の遺族厚生年金が減るということになります。
アケミさんが繰下げ受給をした場合、老齢厚生年金は58万円に増えますが、差額支給の遺族厚生年金は68万円(126万円-58万円)となり、合計は126万円です。繰下げしない場合は、老齢厚生年金は45万円で、差額支給の遺族厚生年金は81万円(126万円-45万円)となり、合計は同じく126万円になります。
つまり、繰下げしてもしなくても、厚生年金としての合計額は変わりません。ただし、繰下げ受給を選ぶと、これまでの待機期間である3年5ヵ月分の老齢厚生年金がまるごと受け取れないことにもなります。
そのため、老齢厚生年金は65歳開始として遡ったほうがいいということになります。
【社労士FPが解説】2028年には法改正…「繰下げ受給」は慎重に判断を
結局アケミさんは、老齢厚生年金は65歳に遡って請求し、遺族厚生年金との調整がない老齢基礎年金だけを繰下げ受給することにしました。
カズアキさん亡きあとの年金は、「老齢基礎年金(68歳5ヵ月繰下げ)103万円+老齢厚生年金(65歳開始)45万円+遺族厚生年金(65歳開始の老齢厚生年金を差し引いた額)81万円」の合計年間229万円となります。月額に換算すると約19.1万円です。
遺族厚生年金が受け取れるようになった一方で、当初考えていた70歳までの繰下げは叶いませんでした。
長生きを前提に、少しでも増額した年金を受け取ろうと「繰下げ受給」を選択することもあるかと思いますが、今回の事例のように配偶者が死亡した場合、遺族厚生年金の発生で制約を受けてしまうため注意が必要です。
もっとも、2028年4月からは法改正が予定されています。遺族厚生年金の受給権が発生しても引き続き繰下げが可能となり(※老齢厚生年金の繰下げは、遺族厚生年金を請求していないことが条件)、選択肢が広がる見込みです。
繰下げ受給を検討する際には、こうした最新の法改正の内容も踏まえたうえで、自身に該当する可能性のあるポイントをおさえてから慎重に判断することが大切です。
五十嵐義典
特定社会保険労務士/CFP®
株式会社よこはまライフプランニング代表取締役
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