誰でも1回は経験したことがあるであろう「書き間違い」。幸い(さいわい)」が一画減るだけで「辛い(つらい)」になるように、ちょっとした書き間違いで、意味が真逆になってしまうこともあります。重要な書類では、その「ほんのちょっとのミス」が命取りになることも……。そこで本記事では、クイズ作家の近藤仁美氏による著書『世界を変えた「凡ミス」図鑑』(三笠書房)より一部を抜粋・再編集し、「コンマの書き間違い」が原因で、約200万ドルの損失を出してしまったエピソードをご紹介します。
ほんのちょっとの書き間違えで「約61億円消失」の惨事……アメリカ政府を大損させた「まさかの凡ミス」
野菜か果物か?――トマトをめぐって珍裁判
ちなみに、同じく1800年代のアメリカでは、果物をめぐってちょっと変わった騒動が起きている。
トマトが野菜か果物かで、最高裁まで揉めた(揉めすぎ)。
ことの発端は、1883年の関税法の変更だ。当時、やはり国内産業の保護のため、輸入野菜に新たな関税をかけることになったのだが、果物であれば追加の関税がかからなかった。すると起こるのが、税金を払う側と集める側のバトルだ。
たとえば、ニューヨーク港では、ニックスさんの会社が輸入したトマトに対し、税関長ヘッデンさんが「トマトは野菜!」と課税した。一度は税金を納めたニックスさんだったが、どうにも納得できず、「トマトは果物!」と裁判を起こした。この事件は当事者の名をそのまま取って、「ニックス対ヘッデン事件」と呼ばれている。
どうでもいいことだが、この事件を思い出すたび、私の頭の中で幻(まぼろし)の小学生が「バナナはおやつに含まれますか!」と元気に挙手してくる。バナナはおやつ(略)の場合、子どもたちは遠足用のお菓子の予算が圧迫されるわけだが、トマトは野菜(略)の場合、ニックスさんは文字どおり売るほど輸入しているので、多額の関税が課せられてしまう。そういうわけで、至極真剣に議論せざるを得なかった。
ニックス対ヘッデン事件では、最終的にヘッデンさんの「トマトは野菜!」が認められた。トマトは植物の実ではあるが、一般的な食事では野菜として利用されるため、関税での捉え方も野菜とする、というわけだ。
ついでにこのとき、のちのち火種になりそうな、カボチャ・キュウリ・エンドウ豆なども野菜と決められた。こうした、ちまちまとした交通整理によって、貿易大国・アメリカの歴史が少しずつ刻まれていった。
さて、これで一件落着かと思いきや、「トマトは野菜!」は思わぬ形で現代に影響を及ぼしている。
たとえば、1980年代、アメリカで学校給食の予算を抑えることになった際、「ケチャップは野菜?」論争が巻き起こった。予算は減らしたいが、子どもたちに必要な栄養基準は維持したい。そこで、アメリカの役所が「卵やヨーグルトは肉扱いでOK、刻みピクルスやトマトペーストも野菜に含める」などの提言をしたのだが、これには国内から「ケチャップを野菜と呼ぶのは無理がある」「子どもへの栄養を軽視している」などの批判が出てしまった。
最終的に、役所からの提案のうち、調味料を野菜として扱う部分については撤回され、この問題の責任を取る形で、教育行政の責任者が解任された。
