ミホさんが「100%間違っている」とは言えない

本件は「娘が両親の財産を狙っている」ようにみえますが、実は「親族が介護や家事を担った場合の対価をどう考えるか」という、難しい問題もはらんでいます。

相続の場面では、介護をした相続人が「寄与分」を主張することも珍しくありません。しかし実務上、寄与分が認められるハードルはかなり高いです。

単に親の世話をした、通院に付き添った、家事を手伝ったというだけでは足りず、通常期待される親族間の扶助を超える“特別な貢献”が必要とされます。

筆者としては、具体的には「仕事を辞めて、業者と同程度の介護を行っていたような場合に、初めて金銭評価の余地が出てくる」と説明することが多いです。

その意味では、ミホさんが本当に継続的に介護や家事を担うのであれば、あいまいな好意や将来の相続への期待にするのではなく、一定の対価を定めておくこと自体は、必ずしも不合理ではありません。

ミホさんがもともと仕事をしていなかったという事情はあるものの、介護の程度によっては、対価を求めること自体が直ちにおかしいとはいえないでしょう。

むしろ、他の相続人との公平性を考えると、生前に介護の内容や時間、金額などを明確にし、対価として支払っておくほうが、のちの相続トラブルを防ぎやすい面もあります。

もっとも、本件で問題なのは、父の認知機能が不安定な状況で、実印や通帳を娘が管理し、母に圧力をかけるような形で契約を迫っている点です。娘側の言い分も理不尽とまではいえませんが、その進め方が誤っているのは明白でしょう。

介護契約自体はあり得ます。しかし、本人の自由な意思に加えて、金額の合理性や実際の介護内容の記録などが不可欠です。実際、家族だからと“なあなあ”のまま、なし崩し的な契約になってしまい、後々揉める例も少なくありません。

たとえ、寄与分の代わりに生前の介護費用を支払うことを「親子間で合意のうえ」決めた場合であっても、専門家を交えたうえで正式な契約として、明確に取り決めておくことをおすすめします。

山村 暢彦
弁護士法人山村法律事務所
代表弁護士

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