収入減とモチベーションの低下にどう対処するのか

人事院の「民間企業の勤務条件制度(令和5年調査結果)」によると、役職定年制度を導入している企業割合は16.7%。決して珍しくはありません。

かつては55歳頃から一律で役職を外す企業が多かったのですが、今では定年延長の流れに伴って、60歳まではバリバリ働いてもらい、給料も維持する。60歳で雇用延長になる際に役職が外れ収入も下がるという企業も増えているといいます。田中さんは、まさにこのパターンです。

いずれにしても、この役職定年のタイミングで仕事への気力を失ってしまう人が多く見られます。

特に問題となるのは、教育費や住宅ローンといった大きな支出が残っている中で収入が減ることです。これにより家計が崩れ、老後への不安が一気に現実味を帯び、それまで何とも思わなかった働き方への疑問に向き合うことになる人もいます。

まとまった退職金が入ったとしても、その大半がローンの完済と学費に消えてしまえば、手元に残るのは自由ではなく空っぽの通帳だけです。

収入とモチベーションを切り離すのは難しいものです。だからといって、元々やる気があった人が、56歳から65歳まである会社員人生を「透明人間」で働くというのも、別の厳しさがあるでしょう。

重要なことは、「収入が下がっても破綻しない家計」を早い段階から作っておくことです。毎月の支出を把握し、無理のない生活水準を維持すること。そして、老後に必要な資金を逆算し、リタイアまでにどれだけ準備すべきかを明確にする必要があります。

役職定年はネガティブな出来事だけではありません。管理職としての責任から解放されることで、自分の人生を見つめ直す時間を得ることもできます。また、これまで培ってきた経験やスキルを活かし、副業や新たな仕事に挑戦するという選択肢もあります。

重要なのは、「なんとなく働き続ける」のではなく、自分のこれからの人生を主体的に設計することです。変化をポジティブに捉え、人生の後半戦をどう生きるかを考える時間としてみても良いのではないでしょうか。

50代は将来への分岐点―今やっておくべきこと

今回の事例は、収入の減少が見えているにもかかわらず、十分な準備ができていないことで、働き方や人生そのものに影響が出てしまう典型例と言えるでしょう。

50代は、収入のピークであると同時に、将来への分岐点でもあります。この時期に家計の見直しや資産形成の方針を明確にしておかなければ、役職定年後に大きな不安を抱えることになりかねません。

「まだ大丈夫」と思っている間に時間は過ぎていきます。

収入が下がる前に、支出を整える。将来必要なお金を見える化し、今から準備を始める。そして、働き方も含めて人生設計を見直す。それらを実行できるかどうかが、定年前後の安心と不安を分ける大きなポイントになるのです。

小川 洋平
FP相談ねっと

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