サトルさんへの対処を急ぐ「もうひとつの理由」

タツオさんには、もう一人息子がいます。サトルさんの兄です。

その長男はとても堅実なしっかり者。結婚のときも、家を建てたときも、タツオさんの援助の申し出は受けませんでした。そのため、タツオさんはこれまで、長男には一度も金銭的な援助をしたことはありません。

長男は「自分たちのやれる範囲でやるから大丈夫。父さんたちは自分たちのためにお金を使ったらいいよ」と、日頃から言ってくれるそうです。

よくできた長男と自立できない次男という構図。これまでは長男の言葉を真に受けて、次男の援助ばかりしてきましたが、快く思っているはずはないでしょう。

タツオさんは80歳という節目を迎え、長男の気持ちに応えるためにも今できることをしておきたいと、相続について真剣に考えることを決意したのでした。

相続の基本

相続について考えるうえで、まず押さえておきたいのは次の4つです。

1.遺産相続は相続人全員の合意があれば、任意の割合で分けることが可能。しかし、合意ができない場合には法定相続割合で相続することになる。

2.法定相続割合とは、仮にタツオさんが先に亡くなると、相続人は妻と長男、次男の3人。法定相続割合は妻1/2、兄弟はそれぞれ1/4ずつ。

3.任意の割合で相続させたいのであれば、遺言書の作成が一般的。ただし、偏った相続割合は遺留分を侵害する恐れがあるため注意。相続人が配偶者と子どもである場合の遺留分の割合は、妻が遺産総額の1/4、兄弟それぞれは1/8。遺産が3億円の場合、妻の遺留分は7,500万円、子はそれぞれ3,750万円ずつ。

4.特定の誰かに多く遺産を渡したい場合は、生命保険金の受取人に指定するという方法もあり(死亡保険金は受取人の固有の財産)。

上記を押さえたうえで、タツオさんの資産の8割は不動産であるため、法定相続割合できれいに分けることは困難であることを認識しておく必要があります。

これらのことから、円満な相続を遂行するためには、遺留分を考慮した遺言書の作成が現実的かつ効果的でしょう。

なお、親が子へ行う生活費の援助は、日常生活に必要な範囲であれば贈与税の対象となりませんが、社会通念上の範囲を超えるような金額や、高額かつ定期的な資金援助は特別受益(※)みなされるリスクがあります。

(※)特別受益とは……特定の相続人が受けた利益(まとまった額の資金援助、生前贈与)のこと。相続が発生した際、「特別受益」とみなされた額が、相続時の財産に持ち戻される(加算される)。