天国から地獄へ…福山さんの末路

FIREを実現してからの数ヵ月、福山さんの生活はまさに“理想そのもの”でした。

朝は好きな時間に起き、予定のない日は一日中のんびり過ごす。お昼からお酒を楽しむ日もあれば、妻とゆっくり旅行に出かけるなど、お金と時間を気にしない穏やかな日々を満喫します。

しかし、その幸せは長く続きませんでした。

退職から約半年後、株式相場が急落。保有銘柄の価格は急落し、配当・分配金収入が激減しました。さらに悲劇は重なり、保有物件で複数の退去が発生、家賃収入が半分以下となります。原因の入居者トラブル対応や大規模修繕のためのまとまった支出は、保有銘柄を損切りして補填するという悪循環です。

結局、退職からわずか2年で資産は半分近くにまで減少しました。想定していた収入が途絶え、生活は一気に苦しくなります。節約生活を強いられ、妻との会話も減り、家庭の雰囲気は冷え込んでいきました。

自由を手にしたはずの福山さんは「無職の大黒柱」として自宅に居場所を失い、肩身の狭い日々を送るようになったのです。

そしてある日、福山さんは決断します。電話をかけた先は、かつて自分が指導していた部下でした。

「安易に辞めた私が愚かだった。頼む……嘱託でもいいから雇ってくれ」

夢にまでみたFIRE生活は、こうして静かに崩れ落ちていったのでした。

FIREはゴールではなくスタート

FIREを実現した人の多くは、金融資産から得られる収入で生活しています。しかしそれらは市場環境によって大きく変動するため、市況悪化時の備えが必須です。

福山さんがFIRE生活を早期に断念した理由は、まさに「市況悪化時の備え」がなかったためでした。

FIREには、安定収入を確保する仕組みづくりや、支出を抑える工夫が欠かせません。

資産が増えている時期こそ慎重に、そして不調な時期でも資産を長生きさせるプランを立てておくことが、FIREを長く続けるためのポイントとなるのです。

辻本 剛士
神戸・辻本FP合同会社
代表/CFP