日々の暮らしに欠かせないお金。お小遣いやバイトなど、小さいころから「無駄遣いするな」「お金は大切にしろ」と厳しく育てられてきた人も少なくないでしょう。なかには、いくらお金があっても「減るのが怖い」と使うのをためらってしまう人も……。とある男性の事例をもとに、不安の原因と解決策をみていきましょう。
節約は美徳…60歳で〈貯金残高1億円〉の元大手スーパー店長、定年後1年で「いますぐお金を捨てたいです」のワケ【FPの助言】
大切なお金が国のものに…美徳とされる“質素・倹約”の末路
現在、東山さんには収入がありません。しかし、65歳からは毎月15万円程度の年金が支給されます。
また、これまでの倹約習慣もあり、東山さんの生活費は月15万円程度に抑えられています。つまり、年金収入だけで生活費のほとんどをまかなえるため、資産が大きく減ることはなさそうです。
自宅の修繕費や医療費、介護費用などのこれから起こりうるまとまった支出を考慮しても、6,000万円残ります。単純計算で毎年200万円は自由に使うことが可能です。
それを聞いた東山さんは、思わず苦笑しました。
「こんなに資産が余るのですか……。いったい私はいままでなにに怯えていたんでしょうね」
「あとから振り返ると、贅沢な悩みだったのかもしれませんね」FPはこう言いながら、1枚の資料を取り出しながらある“懸念点”を伝えました。
「ところで、東山さんの家系図を拝見したところ、法定相続人がいないようですね。このままですと、東山さんにもしものことがあった場合、残った資産は国庫に帰属する形になります」
「国庫?」
「ええ、相続人がいない場合、財産は最終的に国のものになるんです。もちろん、それも1つの選択肢ですが、せっかくここまで貯めたお金です。もう少し有意義な使い方を考えてみては? 貯めたお金を天国に持っていくことはできませんからね」
相続財産の国庫帰属は増加傾向
人が亡くなった場合、その人(被相続人)が保有していた財産は、原則として相続人に引き継がれるのが一般的です。しかし、法定相続人がいない場合、被相続人の財産は国庫に帰属することになります。つまり、相続されるべき人がいない財産は、最終的に国が引き取ることになるのです。
近年、相続財産の国庫帰属の件数および金額は増加傾向にあります。最高裁判所の資料※によると、国庫に帰属した相続財産の総額は以下のように右肩上がりに増加しています。
2021年度:約647億円
2022年度:約770億円
2023年度:約1,020億円
※ 出所:「裁判所 省庁別財務書類(令和3~5年度)」
相続財産の国庫帰属が増えている背景には、「未婚率の増加」や「相続放棄の増加」があると考えられます。したがって、もし東山さんのように独身で身寄りがない場合、自分の財産をどのように活用するかを計画しておくことが重要です。