厚生労働省の「人口動態統計(2022年)」によると、同居期間が20年以上の夫婦による「熟年離婚」の割合は23.5%にのぼり、1947年以降過去最高となっています。この背景のひとつとして「老後資産への不安」が挙げられるそうです。具体的な相談事例をもとに、離婚時の「年金」のしくみと、家計収支の可視化の重要性をみていきましょう。ゆめプランニング代表の大竹麻佐子CFPが解説します。
実は、ずっと離婚したくって…金融資産3,800万円・62歳“おしどり夫婦”の妻が、虎視眈々と「熟年離婚」を狙っていたワケ【FPが解説】
A子さんが「年金には触れない」と決めた理由
夫とのなれ初めをにこやかに語っていたA子さんからの思わぬ発言に驚きつつも、FPが「そうなんですね。おっしゃるとおり、不動産や退職金は財産分与の対象となります。年金分割の請求もできますが、どうしてされないのですか?」と聞き返すと、
「実は私、年金っていくらもらえるのかなあと思って、年金事務所に相談に行ってきたんです。そうしたら、職員さんいわく、どうやら私のほうが多いらしくて……。離婚して年金分割するなら、夫からもらうんじゃなくて、私が渡さなくちゃいけないみたいなの。だから、年金については触れないでおこうと思って」
大学卒業後、50代半ばまで看護師として勤務していたA子さん。夜勤などもあり、年金額を算出するための基礎となる標準報酬が高かったため、平均標準報酬月額が夫を上回ったようです。
「びっくりしたわよ〜! なんだかんだ夫とコミュニケーションはとっているし、周りからは『いつも仲良しね』なんて言われていたんだけれど、お金についてちゃんと話し合ったことはなかったの」
離婚時には「年金」も分割できる
厚生労働省の「人口動態統計月報年計(令和5年)」によると、離婚件数は全体として減少傾向にあるものの、同居期間別にみると、5年未満もしくは30年以上で増加しています。「熟年離婚」という言葉も、最近では当たり前に聞くようになりました。
熟年離婚の増加とともに「年金分割」についての認知度も高くなっている印象です。ただし、言葉は知っていても、内容までは理解していないという人が多いのではないでしょうか? また、年金分割については誤解が多いのも事実です。
離婚にあたって、婚姻期間中に共同で形成した財産のうち、将来受け取る老齢厚生年金の受給権を分割の対象とすることを「年金分割」といいます。
この年金分割には、話し合いにより分割する「合意分割」と、夫婦の一方が国民年金の第3号被保険者であった期間中の相手方の厚生年金記録を2分の1ずつ分割する「3号分割」の2つの方法があります。
いずれも「多いほうから少ないほうへ受給権を移行させる」ことで、それぞれの年金受給額に不公平が生じないよう配慮がなされる制度です。よって必ずしも、夫から妻へ受給権が分割・移行されるわけではないため注意しましょう。