地球の表面の約70%を占める海には、まだまだ解明されていない謎が数多く存在します。人類は長年にわたりさまざまな方法で海底探査を行ってきましたが、高い水圧による有人探査の難しさや機械調査の限界などによって、なかなか全貌にたどり着けない分野でもありました。近年ではAIを活用した海底探査方法が開発されており、詳細な実態調査や環境問題の解決に活用できるのではないかと注目されつつあります。そこで今回は、海底のデータ収集を担うAI技術の実態をご紹介します。
海底の謎がついに明かされる? 海洋分野における「AI活用」で広がる未来 (※写真はイメージです/PIXTA)

※本稿は、テック系メディアサイト『iX+(イクタス)』からの転載記事です。

海底探査の難しさ

 

海中の調査には、音響測深機やソナーを使ったり採泥器で海底の物質を採取したりとさまざまな方法があります。また水中ドローンや定点カメラを用いて海中の様子を撮影するなど、有人の潜水艇による調査もおこなわれています。しかし海の面積のうち約95%を占める深海の調査には数々の問題があり、いまだ未知な部分が多いと言えるでしょう。

 

水深200mよりも深い水深帯のことを深海と呼びますが、この地点で太陽光は海上の0.1%しか届きません。当然深くなればなるほど光は届かなくなり、水深1,000mを超えると完全な暗闇の世界となります。

 

なにより海底探査を困難なものにするのが、水圧の高さです。水深が10m深くなるごとに水圧は1気圧ずつ高くなります。水深1,000mで約101気圧の水圧となるため、人間は生身では到底到達できません。高い水圧に耐える潜水艇や探査機が必要になりますが、開発には多額の費用が必要なため量産するというわけにはいかないでしょう。

 

また前述のとおり地球の約70%を占めるという広大さに加え、海底は起伏に富むため探査には時間を要します。無人探査機や海中ドローンでは一度に調査できる範囲が限られるため、全容を解明するには気が遠くなるほどの時間が必要です。

海底探査のニーズと、広大な海でいま起きている問題

 

非常に難しい海底探査に、なぜ人類が挑むのか。海底探査には主に以下の4つの目的があります。

 

・海洋生物調査
・海底資源調査
・地震、防災
・海洋底地質調査

 

海底資源調査の分野では、近年沖縄諸島や伊豆、小笠原諸島周辺で海底下のマグマで熱せられた温水の噴出が観測されています。海底熱水の噴出孔付近は「海底熱水鉱床」と呼ばれ、重金属を含むさまざまな金属が析出されるため新たな資源として注目されています。

 

また、沖縄トラフでは平成元年に海底からCO2ハイドレートが噴出されているのが観測されました。この発見が現在のCCS(CO2を回収・貯留しCO2排出量削減に役立てる技術)計画に繋がっています。

 

地震や防災分野の調査は、特に日本においても深刻な課題となっています。日本は北米プレートや太平洋プレート、ユーラシアプレート、フィリピン海プレートに取り囲まれた世界中でも稀に見る地震大国です。そのため深海域の海溝付近のプレート境界を観測し、地震に備える必要性が叫ばれてきました。実際に日本近海のいくつかのポイントでは海底地震計が設置されていますが、今後は海溝最深部の地殻変動などの安定的な観測が求められています。さらに海底から断層の試料を採取するためには、海底の詳細な地形や構造を計測する必要があります。