50年ぶりの見直し 「下請代金支払条件に関する通達」とは?

昨年12月、下請代金の支払いについての通達が実に50年ぶりに見直され、さらに「下請中小企業振興法」の振興基準が大幅に改正された。下請法等の改正により、企業を取り巻く環境はどのように変わるのか? そして親事業者(発注者)として、どのようなサプライヤー(下請会社)の支援体制が求められるのか? 連載第5回目は、「下請代金支払条件に関する通達」の概要について、中小企業庁の安藤保彦取引課長に伺った。聞き手は、売掛金の電子債権化事業に取り組むTranzaxの小倉隆志社長である。

大半の下請事業者が満額の代金を受け取れていない現状

小倉 「下請代金支払条件に関する通達」にも触れておかなくてはなりません。これはなんと、50年ぶりの通達のようですね。

 

安藤 昭和41年3月11日に中小企業庁と公正取引委員会が連名で発出した「下請代金支払手形のサイトの短縮について」という通達があります。親事業者が下請代金の支払いのために振り出す手形のサイトを原則、繊維業については90日以内、その他の業種については120日以内にするとともに、サイトの短縮に努めるよう定めた通達です。これを、昨年12月14日に50年間ぶりに見直したのです。

 

その背景にあるのは、下請事業者をヒアリングして明らかになった資金繰りの苦しさと、下請事業者の負担の大きさです。先に述べましたとおり、下請代金支払遅延等防止法で下請代金は給付の受領日から60日以内に支払うべきとされており、期日ギリギリに満期120日の手形で支払われれば、満額受領できるのは半年後になってしまいます。早く現金化しようとすれば、金融機関で割引料が取られます。その割引料はほとんどの場合、下請事業者の負担。つまり、支払手形が慣例となっている業界では、大半の下請事業者が満額の下請代金を受け取れていないのが現状なのです。

 

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小倉 非常にいびつな構造ですよね。本来であれば体力のある親事業者のほうが資金の調達コストは低い。日本のリーディングカンパニーならば、このマイナス金利下ですから1%未満の金利負担で金融機関から融資を受けることが可能な状況です。ところが、手形の割引率は常に短期プライムレート(1.475%)を上回る水準です。親事業者が融資を受けて現金で下請代金を支払ったほうが、サプライチェーン全体で見ても利払い負担が小さいのに、なぜか手形での支払が定着してしまい、下請事業者が無駄な金利負担を背負わされている……。

 

安藤 その点は、我々も非常におかしいと考えています。昨年、主な大企業を訪問して、取引条件改善のためのヒアリングを行っていた際にも、何度も「どうして手形を使っているのですか?」と聞きました。しかし、その回答の大半は「特に理由はないが、昔から使っているから。」というものでした。割引料は下請事業者が負担するものという考え方が親事業者には染みついており、それを見直そうという発想もなかったという企業がいくつもありました。とはいえ、それもおかしな話です。

 

なぜなら、日本の企業が海外の企業と取引をする際には、手形なんてまったく使っていないのです。手形の商取引自体は我が国固有の商取引慣行のなかで利用されてきたもので、その古い慣行・慣習はそろそろ見直す時期に入ってきているのではないかと考えています。

 

小倉 だから「下請代金支払条件に関する通達」を出したのですね。

 

安藤 そのとおりです。その通達では、親事業者に対して3つの方針を示しています。1つ目は、下請代金の支払いは可能な限り現金によるものとすること。2つ目は、手形等により下請代金を支払う場合には、その現金化にかかる割引料等のコストについて、下請事業者の負担とすることのないよう、これを勘案した下請代金の額を親事業者と下請事業者で十分協議して決定すること。3つ目に、下請代金の支払いに係る手形等のサイトについては、繊維業で90日以内、その他業で120日以内にすることは当然として、段階的に短縮に努めることで将来的には60日以内にすること、としています。

 

中小企業庁 取引課長 安藤保彦氏
中小企業庁 取引課長 安藤保彦氏

ピークの10分の1にまで縮小している「手形」の市場

小倉 可能な限り現金払いとする、という点が重要ですね。先ほど、自動車工業会の自主行動計画にも「可能な限り現金で」という文言が盛り込まれているとお話されていましたけど、大企業サイドがこの通達をいかに実践するかで、今後の下請中小企業の経営は大きく変わってくるかと思います。

 

安藤 おそらく、業界を挙げて取り組んでいただけることになっていますので、現金比率は今後どんどん高まっていくものと期待しています。そもそも、手形の市場そのものがどんどん縮小していますからね。小倉さんはご存じでしょうが、手形の交換高はピークの1990年から今では10分の1にまで縮小しています。印紙税や振出のコストや管理の手間など、いろいろと今の時代に即していない面があるからでしょう。

 

ただ、それでも昨年は約400兆円の手形交換高がありました。これをゼロにしようなどとはまったく思っていません。しかし、ヒアリング調査を続けていると、「親事業者が手形での支払いを減らして、受取の8割でも現金で回収できるようになれば、自分たちも下請事業者に手形を振出すのはやめようと思っている」と話す下請中小企業の経営者も数多くいらっしゃいました。

 

つまり、親事業者である大企業が率先して、現金比率向上に努めていただければ、その効果は数多くの下請事業者さんに波及していく可能性が高いのです。ぜひ、そういう流れをつくっていきたいと考えています。

 

Tranzax代表取締役社長 小倉隆志氏
Tranzax代表取締役社長 小倉隆志氏

 

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取材・文/田茂井治 撮影/永井浩 
※本インタビューは、2017年2月13日に収録したものです。

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中小企業庁 取引課長

通商産業省(現、経済産業省)入省後、ベンチャー支援や社会起業家支援、地域活性化などの仕事に携わる。高知市副市長(出向)、博覧会推進室長、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構総務企画部長などを経て、2015年7月から現職。

著者紹介

Tranzax株式会社 代表取締役社長

一橋大学卒業後、野村證券に入社。金融法人部リレーションシップマネージャーとして、ストラクチャード・ファイナンス並びに大型案件の立案から実行まで手掛ける。主計部では経営計画を担当。経営改革プロジェクトを推進し、事業再構築にも取り組んだ。2004年4月にエフエム東京執行役員経営企画局長に。同年10月には放送と通信の融合に向けて、モバイルIT上場企業のジグノシステムを買収。2007年4月にはCSK-IS執行役員就任。福岡市のデジタル放送実証実験、電子記録債権に関する研究開発に取り組んだ。2009年に日本電子記録債権研究所(現Tranzax)を設立。

著者紹介