今回は、相続税の納税まで考慮した「遺産分割協議」の重要性について解説します。※本連載では、税理士・内田麻由子氏、弁護士・武内優宏氏の共著『誰も教えてくれなかった「ふつうのお宅」の相続対策ABC』(セブン&アイ出版)の中から一部を抜粋し、実際のケースをもとに、「ふつうのお宅」で起こりうる、身近な相続(対策)の事例を見ていきます。

遺産分割は良好な家族関係のためにも「話し合い」を

前回の続きです。

遺言があるからといってそれを一方的に執行してしまうよりも、遺言をベースにして話し合いで分割協議がまとまるようならば、そうしたほうがよい場合もあります。

 

そのほうが、遺言の検認・執行という手間もかからないし、なによりも今後の家族の関係を良好に保つためにもよいことが多いのが実情です。そのことを伝えた上で、

 

「話し合いの際は、まず遺言の内容について合意した上で、遺言以外の財産の分け方を決めるといいですね。その際に大事なことは、相続税の納税資金のことも考えて遺産分割を決めることです。ほかの3人は相続する預金から相続税が払えますが、桃子さんは不動産のみを相続したのでは相続税が払えませんから」

とアドバイスしました。

 

「相続税は、どのくらいかかるのでしょうか?」

と心配そうな桃子さん。

 

「自宅の土地は、路線価100万円×100㎡で1億円の評価額です。ただし印刷会社に賃貸している家屋の2階部分に対応する敷地50㎡については、貸家の敷地(『貸家建付地』といいます)として評価し、さらに桃子さんが賃貸業を続けるならば、『小規模宅地等の評価減の特例』が使えますので、土地の評価額は6900万円になります。その他の財産を合計した1億3000万円に対する相続税の総額は、940万円です。これを各相続人の方が相続した財産の割合で按分した税額を、それぞれ納付していただくことになります」

とお伝えしました。

 

ハツさんの四十九日法要のあと、桃子さんは、梅子さん、健さん、康さんに実家に集まってもらい、遺産分割の話し合いをしました。体の弱い梅子さんに付き添ってきた娘の明美さんが、ハツさんの遺言書を見るなり、

 

「この家と土地を桃子おばさん1人で相続するなんて、そんなの不公平だわ!それに健さんがお墓を守るとはいえ、康さんと2人合わせて3000万円なのに、うちは2000万円だなんて、納得できない!」

と不満をあらわにしました。

 

健さんは、不動産を桃子さんが相続することについては、

「おばあちゃんの遺言があったのだからしかたがない。そのとおりにするしかないよ」と言います。

 

康さんは、

「おばあちゃんの意思を尊重したほうがいいと思うよ」

と穏やかです。

 

結局、日を改めて4人の相続人で話し合いをすることに。その結果、「梅子が3000万円、桃子が実家の土地・家屋と400万円、健が2300万円(祭祀承継者)、康が1300万円」という遺産分割の内容にまとまりました。

遺言も「相続税の納税」を考慮して作成する

ハツさんが亡くなってから9か月後、4人の相続人の方にお集まりいただき、相続税の申告書についてご説明し、押印をいただきました。お墓を守ることになった健さんが、「もうすぐハツおばあちゃんの一周忌だね。桃子おばさん、どのようにしたらいいかな」

と相談していました。

 

もし相続でもめにもめてしまっていたら、一緒にハツさんの供養もできなくなってしまいます。ハツさんの遺志を尊重して相続できて本当によかったと、ホッと胸をなでおろしました。

 

<相続のポイント>

「相続の納税を考えた相続を」

遺言を作るときには、相続人全員が相続税を納付できるかどうかについても考慮しましょう。不動産や自社株を相続する人は、相続した財産で相続税を払えるでしょうか。遺言を作る前に、相続税がどのくらいかかるのかを税理士に相談し、相続税の納税をふまえた遺言を作りましょう。

 

【相続税計算の仕組み】

今回の松原ハツさんの事例で、相続税の計算のしくみを確認しましょう。(平成27年以降の税制で計算)

 

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    本連載は、2014年9月3日刊行の書籍『誰も教えてくれなかった「ふつうのお宅」の相続対策ABC』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

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