中国の重点政策の一つである「一帯一路」構想。今回は、その構想を推進する原動力の一つである国内経済の要因について見ていきます。

中国が構想を推進する必然性

中国と周辺国とのコネクティビティ(連結性)を強化する「一帯一路」構想は以前からあり、特に陸路は、旧ソ連崩壊後、中央アジア諸国との関係強化を模索する中で検討されたと言われる。

 

しかし、①鄧小平以来の‘韬光养晦’政策(内政に注力し、外交については目立たない)、②東部沿海部に力点を置いた改革開放政策の実施が優先され、中西部の開発が後回しにされたことから、構想が具体的に推進されることはなかった。習政権がこれを政治的に大きくハイライトするようになったことには、国内の経済と政治、そして対外経済・安全保障という3つの要因がある。

 

 

構想は国内の経済格差是正の有力な手段

中国は東部沿海部の発展を優先する形で改革開放を進めてきたが、その過程で大きな地域格差が生じてきた。これを是正するため、2000年代に入り、内陸農村部の発展を促す西部大開発政策が打ち出されたが、顕著な成果は挙がらず、地域格差はむしろ拡大、中国経済全体が中速度成長に移行する中で、格差是正が以前にも増して重要になってきている。

 

西部地域のうち甘粛、陝西、新彊といった地域は中央アジア諸国や東欧に地理的に近く、歴史的にも陸路のシルクロードに深く関わってきた。また西部の中でも雲南や広西はベトナム、ラオス、ミャンマーといったASEAN諸国と接し、海上シルクロードでASEANとの経済関係が強化されると、大きな恩恵を享受できる。構想は、地域格差是正という国内経済問題を解決するひとつの有力な手段として出されてきたものだ。

 

地域的に均衡のとれた発展を模索するという意識は、2015年全人代政府工作報告で、構想を、‘長江経済帯戦略’‘京津冀協同発展’と合わせて、地域発展の‘3大支柱帯’と位置付けたことからも明らかだ(注)。

エネルギー資源の供給ルートを多様化する意図も

中国はいわゆる‘新常態’を模索する転換点にあり、当面7%程度の成長を維持しようとしているが、経済規模自体がすでに大きく、エネルギーの安定的供給を確保できるかどうかが、その実現の鍵を握る。

 

旧ソ連崩壊後、中央アジア諸国との関係を強化してきた主たる経済的動機が、豊富なエネルギー資源を有する中央アジア諸国からのエネルギー供給であることは間違いない。また中国は輸入の85%、特にエネルギー輸入の80%をマラッカ海峡経由に依存していることに以前から大きな不安と懸念を持っており、資源確保ルートをできるだけ多様化・分散化するため、資源の豊富な中央アジア諸国、ベンガル湾やインド洋に接するミャンマー、ペルシャ湾に通じるパキスタンといった国々との関係を強化しようとしてきた。

 

構想は、改めてこれらの国・地域との一層の関係強化を目指し、マラッカ海峡への過度の依存を避けてエネルギーの安定的供給を確保しようとするものだ。中国最大のシンクタンク、社会科学院も、「世界能源(エネルギー)発展青皮書2014」において、構想を、ロシアやカスピ海沿岸諸国とのエネルギー面での協力関係を深化させ、世界のエネルギー市場における中国の立場を高める手段と位置付けている。

 

(注) ‘長江経済帯戦略’は、上海、江蘇から雲南、貴州に至る11の省市をカバーし、人口、生産額は全国の40%以上を占める沿海から内陸にかけての均衡ある開発を目指す戦略。‘京津冀協同発展’は、北京、天津、河北省(冀)の交通インフラや通関業務を手始めに一体化を目指す戦略。

 

 

本稿は、個人的な見解を述べたもので、NWBとしての公式見解ではない点、ご留意ください。

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