中国の重点政策の一つである「一帯一路」構想を解説している本連載。第3回は、習近平政権が構想を進める要因となっている、国内の政治問題と国外情勢の変化についてお伝えします。

少数民族問題の封じ込めを狙う!?

中国が「一帯一路」構想を進める要因の2つ目には、国内の政治問題が挙げられる。

 

中国は新彊ウイグル自治区で少数民族問題を抱え、そこでの分離独立運動に神経を尖らせている。同自治区の少数民族は、宗教・文化的にも、また言語的にも、漢族よりは中央アジア諸国にはるかに近い。旧ソ連崩壊後、中国が中央アジア諸国との関係を強化し、上海協力機構(SCO)を主導してきた大きな理由は、新彊で激しさを増す分離独立の動きに対し、中央アジア諸国を取り込んだ反分離独立の地域協力を進めることであったと見られる。

 

中国政府からすれば、中央アジア諸国との辺境貿易を活発化させ、ヒトやモノの行き来が増えるほど、新彊での分離独立運動にヒトや資金・物資が集まるというジレンマもあるが、構想によって最も大きな利益を享受できるのは中央アジア諸国であり、中国が新彊での分離独立運動と闘う際に、これら諸国がより中国当局に協力的になることを期待していると考えられる。

 

 

こうした点は、国務院発展研究中心の構想戦略研究チームが、構想は「地域の安定と平和に貢献し、もって‘三股勢力’(注)と闘う有効な手段となる」と明確に位置付けていることからも明らかだ(2014年7月14日付中国改革論壇)。

 

問題は前回お伝えした第一の点とも関連するが、中央アジア諸国の取り込みに加え、構想実現によってもたらされる経済的果実を、少数民族が現実にどの程度享受できるかだろう。また新彊の不安定な情勢が、同地区の投資環境を悪化させ、むしろ当面、構想実現の阻害要因となっている側面も無視できない。

 

米国のアジアリバランス政策に警戒感

構想を進める要因の3つ目には対外経済、外交安全保障が挙げられる。


中国はここ2,3年、環太平洋経済連携パートナーシップ(TPP)に典型的に見られる、米国の対アジアリバランス政策に大きな警戒感を示してきた。中国としては、これに対抗しまた米国をけん制するため、ASEANとのFTA強化や、自らの主導でASEANに日中韓、インド、オーストラリア、ニュージーランドを含めた包括的地域連携協定(RECP)といった地域協力枠組みを構築することに熱心で、海上シルクロード構想は、そのためのかっこうの手段である。

 

南シナ海で、ベトナム、フィリピンとの間での緊張が高まる中で、構想はASEANに対する‘剛柔相済’、硬軟取り混ぜた外交政策の‘柔’の側面を示すものと位置付けることができる。

 

陸路については、ロシアの存在がある。ウクライナ問題で表面的には中露は接近したが、元来中国は、ロシアが「欧亜帝国」再構築の野望を持っていると警戒しており、ウクライナ問題はまさにそうしたロシアの野望を示すものと受け止めている。中央アジア諸国は、旧ソ連崩壊後、中国との関係は重視する一方で、中国の台頭、その影響力が強大になることに警戒感があり、中国とロシア双方に軸足をおいてバランスをとろうとしている。

 

経済統合を目指したユーラシア経済同盟(2015年1月発足)にカザフスタン、ベラルーシ、アルメニアが加盟した他、旧ソ連の一部であったキルギスも参加表明していることは、その端的な表れだ。中国としては、そうした中央アジア諸国を中国側に引き寄せ、ロシアに対抗するための手段が、中央アジアに経済的恩恵をもたらす陸路のシルクロード経済ベルトということになる。
 

(注) SCOの枠組みでしばしば言及される闘うべき共通の相手、国際テロ、分離主義、宗教的急進主義の3つの勢力。

 

 

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    本稿は、個人的な見解を述べたもので、NWBとしての公式見解ではない点、ご留意ください。

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