「人の意見は気にしなくていい」は間違い
ということは、内面的な性質については、つねに自分の評価のほうが正しいのだろうか? 他者からの評価の正しさを判定する場合、つねに自己評価を基準にすることができるのだろうか?
いや、そんなことはない。コンリーとワンズは、ある人物を複数の人に評価してもらった場合、他者からの評価はどこまで一致するかという調査も行った(もう一度確認するが、2人が使ったデータは数百におよぶ研究結果であり、参加者は数千人にもなる)。
その結果、たとえ自己評価と他者からの評価の間に大きな違いがあっても、他者の評価の間にはそれほど大きな違いはないことがわかった。
つまり言い換えると、自己評価と他者からの評価は違うかもしれないが、他の人たちはあなたについてだいたい同じ意見を持っているということだ。親密さの度合いが同じくらいの人たちは、特にその傾向が強い。赤の他人からの印象、同僚からの印象、友人からの印象は、それぞれだいたい一致する[注1]。
[注1]あなたも自分で試してみよう。自分はどんな人間だと思うか友達に尋ねてみれば、だいたい同じような答えが返ってくるはずだ。あなたの意見は違っても、彼らの意見は一致している。
このことからわかるのは、自己評価と他者からの評価が大きく異なる場合は、他者からの評価のほうが正しいと考えるのが理にかなっているということだ。彼らはあなたの中に同じものを見ている。
もし、あなたに同意する人が他にまったくいなくて、他の人はみんなが同じ意見を持っているなら、自分のほうが正しいと主張することなんてできるだろうか。
トマス・ペインは、いみじくもこう言っているー「われわれの評判は、他人がわれわれについて考えていることである」。本人が他人の意見に賛成だろうが反対だろうが関係ない。自分の人格について知りたかったら、神様か天使か、とにかく自分が信じている聖なる力に尋ねるしかないかもしれないーまたはグーグルだろうか?
もし直感的に「それはおかしい」と感じるなら、「人の意見なんて気にしなくていい」というアドバイスを聞きすぎたからかもしれないーこれは、自己愛と自己顕示が氾濫するこの時代ならではのアドバイスだろう。反骨精神を奨励しているようではあるが、中身は生ぬるい。「自分を愛し、自分らしくありなさい。人の言うことなんて気にしてはいけません」という考え方を土台にしながら、その哲学を信じる人たちに大量消費してもらうことを目的にしているだけだ。
人の評判を気にするのを嫌がるのは、なにも今に始まった風潮ではない。今から一世紀以上も前には、高名な社会学者のチャールズ・ホートン・クーリーがすでにこう言っているー「多くの人が、自分が他人の評判を気にしていることに気づいていない。そして、自分は他人の意見の影響を受けたりしないと、おそらく怒りを交えながら主張するだろう」。どうやら人は、百年前からそれほど変わっていないようだ。
トマス・チャモロ=プリミュージク
ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドン教授
コロンビア大学教授
マンパワーグループのチーフ・
社会心理学者/大学教授
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