(※写真はイメージです/PIXTA)

平均寿命が延びるなか、年金受給額を増やす手段のひとつとして注目されているのが「年金繰下げ受給」です。令和4年4月より繰下げ受給の上限年齢が70歳から75歳まで引き上げられたことも話題になりました。ただ、当然ですが繰下げ受給も良いことばかりではありません。人によっては「むしろ繰下げないほうがお得」なことも……。牧野FP事務所の牧野寿和CFPが、具体的な事例を交えて解説します。

「年金繰下げ受給」を選択すると、かえって家計破綻が早まる

筆者は、Aさんのプランを見ていくつか疑問に思った点がありました。そこで、下記の3つについてお話することにしました。

 

1.年金の「繰下げ受給」

ねんきん定期便を見て「繰下げ受給」の存在を知ったAさんは、65歳から受給予定だった老齢年金を5年繰下げ、70歳からとする計画を立てていました。

 

老齢年金は、受給開始年齢の65歳から受け取らずに、66歳以後75歳0ヵ月までのいずれかのタイミングまで繰り下げる(=受給を遅らせる)ことで、その分増額した年金を受け取ることができます。増額率は1ヵ月0.7%ずつで、最大84%増額した年金が生涯受給できます。また、老齢基礎年金と老齢厚生年金を別々に繰り下げることも可能です。

 

しかし、A家の家計状況で70歳まで年金の受給を繰下げると、そのあいだに貯蓄が枯渇してしまいます。繰下げ受給を選択するよりは、年金は65歳から受給し生活費を確保することが先決です。

 

2.今後は「確定申告」が必要になる可能性

Aさんは、定年退職後、これまで天引きされていた税金や社会保険料も自分で納めることになります。

 

そのため、支出は現在の月額32万円に加えて、税金と社会保険料がかかります。

 

Aさんが正社員として働いていたときは、会社の「年末調整」をもとに所得税や住民税が給与から天引きされていました。しかし、今後A夫妻は、毎年「確定申告」をする必要があります(ただしBさんについては、現在課税されるほど所得がないため、確定申告は不要かもしれません)。

 

健康保険や介護保険については、今後は国民健康保険に加入して、保険料を自分たちで納付します。また、65歳以降年金を受給してその所得によっては、年金から源泉徴収されます。

 

また、年金についても、厚生年金から国民年金になります。妻のBさんは60歳まで国民年金の加入期間となっていますので、保険料は1ヵ月あたり16,520円(※令和5年度の額)です。

 

A夫妻によく話を聞いたところ、すでに健康保険は協会けんぽから国民健康保険への切り替え手続きが済んでおり、国民健康保険証も手元にあるそうですので、保険料の納付書もまもなく送付されることでしょう。

 

3.Aさんには加給年金を受給する権利はない

Aさんのプランには「65歳から加給年金のみを受給」と書いてありましたが、実際には、Aさんに加給年金を受給する権利はないほか、そもそも加給年金“のみ”を受給することはできません。

 

「加給年金」とは、原則本人が20年以上厚生年金に加入して、その方に生計を維持されている一定の条件の配偶者がいるときに、65歳の老齢厚生年金受給開始といっしょに、配偶者が65歳になり自身の年金が受給するまで、年間39万7,500円(※令和5年度の額)受給できるというものです。

 

この加給年金は、老齢厚生年金の繰下げ待機期間(年金を受け取っていない期間)中は、受け取ることができないほか、加給年金を繰下げて受給することもできません。

 

Aさんは、C社が個人の工務店の時代は国民年金に加入しており、18年前にC社が法人化したときから厚生年金に加入したため、加給年金を受給するにはあと2年足りません。

 

したがって、残念ながらAさんに加給年金の受給資格はありません。

 

現在のAさんには当てはまりませんが、もし加給年金の受給資格がある場合は、65歳から老齢厚生年金とともに受給して、老齢基礎年金だけは繰下げて受給するといった、その人に適した受給方法を選択することが可能です。

 

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※プライバシー保護の観点から、登場人物の情報を一部変更しています。

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