◆内部留保の「使い道」
前述したように、内部留保は、その年度の利益から税金を支払い、株主への配当を行ったあとに残ったお金です。このお金は、事業活動の原資に充てられるほか、万が一のアクシデントに備える資金となります。
すなわち、まず、事業資金に充てられる場合の活用方法は、必ずしも「従業員の賃上げ」とは限りません。工場や機械設備、DX(デジタル・トランスフォーメーション)等の設備投資のほか、「運転資金」に充てる場合もあります。その場合、内部留保は、キャッシュは出ていっていますが、あくまでも資産として会社に存在していることに変わりはないので、減ることはありません。
また、予期しない天災や疫病(コロナ禍)、円安による原材料費等の高騰等に備えるために、一部をキープしておく必要もあります。
そこで、着目すべきは、企業が資金をどのような経営判断の下に活用しているのか、あるいは使わずに貯め込んでいるのかということです。
たとえば、「設備投資」の実態はどうでしょうか。「法人企業統計調査」の結果によれば、2019年度が-10.4%、2020年度が-5.0%だったのに対し、2021年度は+9.2%、2022年度は+4.4%と2年連続で増加しています。
このことからみてとれるのは、必ずしも日本企業が設備投資を怠っているわけではないということです。
また、設備投資を見合わせるとしても、ロシアのウクライナ侵攻の長期化と昨今の円安によって原材料費が高騰していることを考慮すると、やむを得ない面もあると考えられます。
ここまで解説してきたように、現時点での日本企業の内部留保の額が大きいことは、それ自体は過去に利益を積み重ねてきたことを示す数字にすぎません。しかも、このところの「円安」も大きく影響されています。
これまで内部留保が積み上げられてきたプロセスに前述のような問題はあるにせよ、だからといって、現在の内部留保の大きさから、一概に「賃上げに回すべき」とか「課税すべき」とかの結論を導き出すことはできません。
給料が上がらないという問題については、IT化が遅れていることや、労使協調の傾向が強いことなど、様々な要因が指摘されています。本記事では立ち入りませんが、少なくとも、内部留保の増大とは区別して考えるべきことであるといえます。
黒瀧 泰介
税理士法人グランサーズ 共同代表
公認会計士
税理士
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