※画像はイメージです/PIXTA

映画『マルサの女』などで有名になった、国税局査察部(通称マルサ)。納税者に有無を言わさず強制調査に踏み込むマルサですが、強い公権力があるからこそ、「調査の空振り(脱税をみつけられなかった)」は許されません。では、マルサがここまで精度の高い調査を実現できるのはなぜなのでしょうか。“元マルサの税理士”上田二郎氏が解説します。

強制調査着手後、職員同士で大喧嘩…謎多き“マルサ”の実態

国税局査察部(通称マルサ)が強制調査に入るには、内偵班と実施班がプライドをかけて戦う検討会を通過しなければならない。検討会がいかに真剣勝負であるかを表すエピソードがある。

 

筆者がマルサに配属されて2年目、査察管理課に在籍していた時の出来事だ。強制調査に着手すると、今まで聞けなかった話や証拠が集まり、結果がおぼろげに見えてくる。強制調査がすべて終了するのは翌日の明け方4時頃だ。

 

実施班「お前ら! 内偵調査報告書にウソばかり書きやがって」

内偵班「てめえらのガサ(強制調査の隠語)が悪いんだ。(脱税者を)落とすこともできずに言いがかりをつけるんじゃねえ」

実施班「お前らが絶対にあると言ったタマリ(脱税の果実。隠し預金など)は、いったい何処にあるんだ?」

内偵班「タマリは必ずある。それを探すのがてめえらの仕事だろう」

 

著書『国税局査察部24時(講談社現代新書)』より一部を抜粋・再編集

 

強制調査の着手日。翌朝3時に国税局の廊下で大喧嘩が始まった。強制調査が一段落した後の打ち上げで起こった事件だ。廊下に大きな声が響き渡ったため駆けつけると、査察官(内偵班)VS.主査(実施班)の構図で、仲裁に入った査察官に押さえつけられながら睨み合っていた。

 

その日の強制調査は内偵調査どおりにはいかなかった。強制調査によって全貌が見えた後の打ち上げの席で、実施班が発した「ウソばかり書きやがって」に内偵班が即座に反応して殴りかかった。喧嘩を擁護するつもりはないが、お互いのプライドがぶつかり合った瞬間だ。

マルサは「完全分業制」

調査の取材に一切応じないため、マスコミ関係者から「沈黙の艦隊」と呼ばれる国税局。なかでもマルサは特に情報のガードが堅いことで有名だ。そして、唯一「強制調査」の権限を持つマルサを“国税最後の砦”と呼ぶ。

 

マルサの内偵手法は在籍したものでなければ想像することもできない世界で、内偵活動の実態を知るのは極めて限られた者たちだけだ。

 

脱税者に察知されることなく強制調査に入る姿から「ステルス潜水艦」とも呼ばれる。

 

映画『マルサの女』の大ヒットによって、査察部の隠語だったマルサが使えなくなり、当時6階にあったことから“ロッカイ”と呼ばれた。筆者が東京国税局査察部に赴任した昭和63年、マルサは大手町合同庁舎の6階から4階に移転したのだが、その後も“ヨンカイ”とは呼ばずにそのまま“ロッカイ”を使っている。

 

映画『マルサの女』やテレビドラマ『チェイス国税査察官』、『ナサケの女』など国税査察官の活躍を描いた作品は多いが、映画やドラマにははっきりと描かれてはいないことがある。

 

マルサには内偵調査を専門に活動する内偵班(通称、ナサケ)と内偵調査の結果を受けて強制調査に入る実施班(通称、ミ)が存在する。ナサケは情報の「情」から、ミは実施の「実」からくる隠語で、その業務は完全分業制だ。

 

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