(写真はイメージです/PIXTA)

東南アジア5カ国は今、景気減速傾向にあり、経済成長のペースは鈍化しています。しかしながら来年度からは輸出産業の回復による兆しが見える可能性があるでしょう。本稿では、ニッセイ基礎研究所の斉藤誠氏が東南アジア経済について見通します。

2.各国経済の見通し

2-1.マレーシア

 

[図表6]マレーシアの実質GDP成長率(需要側) / [図表7]マレーシアのインフレ率・政策金利


マレーシア経済は2023年4-6月期の成長率が前年同期比+2.9%となり、1-3月期の同+5.6%から減速、約2年ぶりの低成長となった。昨年はコロナ禍からの経済活動の正常化が進む中、通年の成長率が前年比+8.7%(2021年:同+3.1%)と大きく上昇したが、現在は外需の落ち込みとマイナスのベース効果により成長ペースが鈍化している(図表6)。

4-6月期の景気減速は外需の更なる悪化が主因となった。

まず財貨輸出(前年同期比▲9.4%)は海外需要の低迷により電気・電子産業をはじめとする輸出志向の製造業が振るわず減少幅が拡大した。また民間消費(同+4.3%)はペントアップ需要の剥落やマイナスのベース効果により増勢が鈍化した。

 

一方、マレーシアは昨年4月以降、入国規制を段階的に緩和しており、インバウンド需要が拡大しておりサービス輸出(同+41.4%)の大幅な増加が続いた。また総固定資本形成(同+5.5%)は公共投資の複数年にわたる投資プロジェクトの継続的な実施により加速した。

先行きのマレーシア経済は外需の停滞を内需が下支えする形となり年後半も緩やかな成長が続きそうだ。輸出はインバウンド需要の回復によるサービス輸出の増加が続くものの、世界経済の減速により財貨輸出の停滞が予想されるほか、借入コストの増加や先行き不透明感の強さから民間投資が伸び悩むだろう。

 

しかし、2023年度国家予算は開発支出予算が前年度比35.5%増の970億リンギに拡充されており、大型インフラ事業の継続が投資の下支えとなるだろう。また民間消費はベース効果の影響により鈍化するが、観光業の回復による労働市場の安定やインフレの鈍化、アンワル政権の低中所得層に対する生活支援策が下支えとなり底堅い伸びを維持するだろう。

金融政策は、マレーシア中銀が昨年5月から段階的に利上げを実施し、政策金利を1.75%から3.00%まで引き上げたが、直近2会合は据え置かれている(図表7)。

 

7月の消費者物価上昇率は前年同月比+2.0%と、昨年8月から低下傾向にあり、23年後半もベース効果と内需の緩慢な成長により低めの水準で推移するとみられる。マレーシア中銀は金融政策の正常化を遂げており、24年も政策金利を現行水準で維持すると予想する。

実質GDP成長率は2023年が+3.8%(2022年:+8.7%)と低下するが、2024年が+4.4%と上昇、半導体サイクルの回復や政府の新産業マスタープランによる投資拡大を受けて内需を中心に回復すると予想する。

 

2-2. タイ

 

[図表8]タイの実質GDP成長率 / [図表9]タイのインフレ率と政策金利

 

タイ経済は2023年4-6月期の成長率が前年同期比+1.8%となり、1-3月期の同+2.6%から低下した。昨年はコロナ禍からの経済活動の正常化が進む中、7-9月期には成長率が同+4.6%と加速したが、現在は輸出悪化が重石となり成長ペースが減速している(図表8)。

4-6月期の景気減速の主因は、輸出低迷が続く中で投資が鈍化した影響が大きい。財貨輸出(前年同期比▲5.7%)は世界経済の減速による外需の悪化やソリッドステートドライブ(SSD)の普及を背景とするハードディスクドライブ(HDD)の需要減退等が響いて減少した。

 

また投資(同+0.4%)は輸出型製造業の業績悪化や原材料コストの上昇、インフラプロジェクトの減少により停滞したほか、政府消費(同▲4.3%)がコロナ関連の支出減少により低迷した。

 

一方、昨年からの入国規制の緩和により外国人旅行者数が回復してサービス輸出(前年同期比+54.6%)の好調が続いた。またGDPの約2割を占める観光関連産業の回復による雇用情勢の改善、高インフレの鈍化により家計の購買力が向上して民間消費(同+7.8%)が加速した。

タイ経済の先行きは、観光業の回復と民間消費が牽引役となり回復軌道に戻ると予想する。外国人観光客数は中国からのフライト数が増加して2022年の1,120万人から2023年に少なくとも2,800万人、2024年には2019年と同規模の約4,000万人まで回復すると予測されておりサービス輸出の好調が続くものとみられる。

 

また民間消費は観光関連産業の回復に伴う雇用環境の安定や高インフレの沈静化、来年実施される新政権の景気対策(1万バーツのデジタル通貨給付やエネルギー料金引き下げ、観光促進策)などにより堅調に推移するだろう。

 

一方、財貨輸出は当面は主要貿易相手国の景気減速により停滞するほか、投資は年内まで借入コストの増加、10月に始まる2024年度予算の執行の遅れなどにより緩慢な成長が続くだろうが、その後は海外需要の持ち直しや政治的不透明感の解消、政府予算の執行加速により輸出と投資が回復に向かうだろう。

金融政策はタイ銀行(中央銀行)が昨年8月以来7会合連続の利上げを実施、政策金利は0.5%から2.25%まで引き上げられている(図表9)。8月の消費者物価上昇率はエネルギー価格の低下により前年同月比+0.9%まで低下して中銀の物価目標(+1~3%)を下回っている。

 

タイ中銀はインフレの沈静化と家計債務の高止まりを考慮して金融引き締めを終了し、来年は国内経済の回復や最低賃金の引上げによる物価上昇を受けて政策金利を現行水準で維持すると予想する。

実質GDP成長率は2023年が+2.9%(2022年:+2.6%)、2024年が+3.5%と緩やかに上昇すると予想する。

 

2-3. インドネシア

[図表10]インドネシア 実質GDP成長率(需要側) / [図表11]インドネシアのインフレ率と政策金利

 

インドネシア経済はコロナ禍からの経済活動の正常化により2022年の成長率が前年比+5.3%(2021年:同+3.7%)と上昇するなど景気回復が続いている。そして2023年4-6月期は実質GDP成長率が前年同期比+5.2%(前期:同5.0%増)と過去3四半期で最も高い水準となり、順調な成長が続いていることが明らかとなった。(図表10)。

4-6月期は内需の回復により成長が加速した。GDPの半分以上を占める民間消費は同+5.3%(前期:同+4.58%)と上昇した。今年6月に国内外での移動や大規模イベント、公共施設でのマスク着用義務が廃止されるなど一連のコロナ規制の緩和により経済正常化が続いたほか、インフレ鈍化により実質所得の目減りが和らいだことも消費の追い風となったとみられる。

 

また投資は同+4.63%(前期:同+2.1%)と改善したものの、金融引き締めや先行き不透明感の強さから企業の様子見姿勢が強かった。一方、外需は外国人観光客数がコロナ禍前の8割強の水準まで回復するなどサービス輸出(同+43.14%)の大幅な増加が続いたが、世界経済の減速とパーム油や石炭など主力輸出品の価格下落により財貨輸出(同▲5.6%)が急減した。

先行きのインドネシア経済は、当面は外需の悪化により成長ペースは鈍化するものの、内需に下支えられる形で+5%弱の成長で推移するだろう。まず輸出はインバウンド需要の増加に伴うサービス輸出の増加が続くものの、中国経済の減速や商品市況の調整により財貨輸出が停滞するだろう。

 

また内需は、民間消費がインフレ鈍化や雇用環境の安定に加え、2023年後半は選挙関連の支出により堅調を維持すると予想する。投資は政府のインフラ整備計画の進展(24年度予算案のインフラ予算は前年度比+5.8%)により公共投資が下支えとなるが、大統領選挙を控えて企業が投資判断を先送りするため民間部門を中心に伸び悩むだろう。

 

しかし、来年は未加工鉱石の禁輸措置や財政健全化などのマクロ経済の安定を背景とする海外からの投資流入、政治的不透明感の解消、金融緩和に支えられて持ち直しに向かうものとみられる。

金融政策は、インドネシア中銀が昨年8月に金融引締めに転換し、政策金利は過去最低の3.5%から5.75%まで引き上げられたが、直近7会合は据え置かれている(図表11)。

 

8月の消費者物価上昇率は前年同月比+3.3%となり、エネルギー価格の低下、農作物の安定供給により中銀の物価目標圏内(+2~4%)まで鈍化している。当面は金融引き締めの影響により低水準で傾向で推移するだろうが、燃料・食品価格の上昇リスクや通貨の安定を優先してインドネシア中銀は年内まで政策金利を据え置き、来年から段階的な金融緩和に舵を切ると予想する。

実質GDP成長率は2023年が+5.0%(2022年:+5.3%)と低下するが、2024年が+5.1%に小幅に上昇すると予想する。

 

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※本記事記載のデータは各種の情報源からニッセイ基礎研究所が入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本記事は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
※本記事は、ニッセイ基礎研究所が2023年9月15日に公開したレポートを転載したものです。

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