世界各国で、自動運転の技術開発が行われていますが、いまだに完全な自動運転技術の実現へのタイムスケジュールは見えてきません。こうした状況を変える切り札として期待されるのが、自動車そのものの技術革新に加え、道路を高度なセンサーと通信手段を備えた「スマート道路」に進化させ、車と道路が一体となって自動運転システムをカバーするという取り組みです。この分野で先行している中国の取り組みを、ジャーナリスト・高口康太氏がレポートします。
「自動運転」実現のカギは「道路の進化」にあった! 中国で進む「スマート道路化」構想の中身と驚くべき「経済効果」 (※写真はイメージです/PIXTA)

※本稿は、テック系メディアサイト『iX+(イクタス)』からの転載記事です。

自動運転技術を「商業化」するための課題

(画像はイメージです/PIXTA)
(画像はイメージです/PIXTA)

 

中国の経済メディア、テックメディアではここ1、2年、「自動運転の冬」という言葉をよく見かけます。

 

自動運転の鍵を握るのはAIです。AIは周囲の車両や障害物、通行人などを認識してどのように走行すればいいのかを判断します。そのAIが日進月歩の勢いで発展しているというのに、自動運転が「冬」を迎えているというのは意外にも感じます。

 

実際、アメリカや中国ではすでに自動運転タクシーの実証実験が始まっています。炭鉱や港湾などでは自動運転車が業務に活用されるようになりました。その映像を見ると、人間以上とも思えるような丁寧な運転で、あと一歩で完全自動運転が実現するように感じます。

 

問題は「あと一歩」がきわめて困難な点にあります。

 

自動運転が一般的に起こりうるケースの大半に対応できるようになると、残された課題は発生確率がきわめて低いイレギュラーな事態にどう対応するか、です。

 

ほとんど起きないけれども、しかし確率はゼロではない。「あと一歩」に見えても、そうした無数のニッチな課題にどう対応するかが難しいほか、事故が起きた場合の責任等の問題が解決できず、自動運転は実証実験から商業化へのステージに上がれない状況が続いています。

 

自動運転技術の開発に積極的な米EC(電気自動車)メーカー・テスラのイーロン・マスクCEO(最高経営責任者)は今年4月、完全自動運転は「今年中に実現する」と発言しています。しかし、マスク氏は過去にも同様の発言を繰り返してきただけに、懐疑的に見る人が大半を占めています。

 

米フォード、独フォルクスワーゲンが出資したArgo AIが昨年10月に清算されるなど、テスラ以外でも厳しい状況が続いています。

 

「あと一歩」をクリアできないのではないか。そうした疑念はアメリカだけでなく中国でも共有されています。今年5月には中国EC(電子商取引)大手アリババグループの研究機関であるDAMOアカデミーが自動運転ラボを解体し、スタッフの約70%にあたる200人がリストラされたことが話題を集めました。残された100人弱のスタッフは物流ソリューション部門のツァイニャオに移り、無人配送車などの開発を続けるとのことですが、あのアリババグループですら自動運転部門を縮小したことは象徴的な出来事です。

 

米中両国で自動運転の研究開発を続けるTusimple Holdings(図森未来)は、2021年に米ナスダック市場に上場しました。自動運転企業として初の上場という記録を打ち立てましたが、株価は上場直後の39ドルから現在は2.4ドルにまで急落し、早くも上場廃止が懸念されています。

 

ベンチャーキャピタルが投資に慎重になる中、他の自動運転スタートアップも上場による資金調達を狙っていますが、厳しい状況が続いています。2020年にトヨタから4億ドルを調達したことで日本でも知られるようになったPony.ai(小馬智行)は今年3月にローレンス・ステインCFO(最高財務責任者)が辞任しました。同氏は上場を実現するために2021年6月に就任したばかりでしたが、短期的には見込めないとの判断が下ったようです。