メタバースへの注目が高まる中で、その活用方法のひとつとして、「障がい者におけるメタバースの活用」が期待されています。アバターを使ったオンライン上での行動を可能にするメタバースは、身体や精神に障がいを抱える方にとって、これまで現実世界では難しかった活動が行えたり、新しい世界を体験できたりする可能性を秘めています。一方で、健常者を前提としたメタバースが当たり前になってしまうと、障がいを持っている人が取り残されるケースも考えられます。障がいとメタバースにおける、課題も含めた現状と今後の展望について紹介します。
ハンデキャップを感じない時代が到来?メタバースが導く「障がい者の包括的な社会参加」への可能性 (※写真はイメージです/PIXTA)

※本稿は、テック系メディアサイト『iX+(イクタス)』からの転載記事です。

メタバースがもたらす障がい者への希望

現在、メタバースは音楽ライブや展示会、教育分野などさまざまな場面で実装されており、その活用の幅は今後も拡大することが期待されています。インターネットに接続できる環境下であれば、PCやスマホ、そしてVRヘッドマウントディスプレイ(HMD)を使用することで、誰でもメタバース上に参加することが可能です。そのため、リアルでは時間やコストのかかる活動やイベントでも、メタバースを利用することでイベント開催や参加のハードルを下げることができます。このような利点から、メタバースでは日々さまざまなイベントが開催されています。

 

(筆者と画家の植村友哉氏によるメタバース展示会イベントの様子)
(筆者と画家の植村友哉氏によるメタバース展示会イベントの様子)

 

筆者自身も、これまでメタバース学校、メタバース美術館、メタバース演劇などさまざまなイベントを主催してきました。その経験を通して感じたこととして、「メタバースは障がいを抱える方にとって、リアルよりも居心地の良い場所になり得る」ということが挙げられます。

 

そのなかでも、「メタバースで働く」という新しい働き方やライフスタイルには可能性を感じています。障がいを持つ人だけに限りませんが、メタバースでは自分の代理の姿となるアバターを使用するため、自分の本来の見た目の影響を受けません。さまざまなイベントが日々行われているメタバースですが、イベントスタッフや講師など、障がいの有無にかかわらず、基本的に誰もが同じように働くことができています。

 

アバターを通したコミュニケーションであれば、障がいを持つことも相手にはわからないことが多く、リアルでは生まれてしまいがちな差別や先入観、偏見などが発生しにくくなります。これは障がいを抱える人にとって、精神的負担を減らすことに繋がるのではないでしょうか。

 

身体的な障がい以上に、精神的な障がいを抱える人にとって、メタバースはより相性が良いのではないかと筆者は考えています。特に自閉症(自閉スペクトラム症)の人は、顔の表情やジェスチャーから相手の意図や隠された意味を読み取ることが苦手な場合が多いです。今日のメタバースでは、自閉症の人に限らず、アバターを通じてテキストメッセージやボイスチャットなどでコミュニケーションをとる場合が多く、リアルの会話よりもすれ違いや誤解が生じる可能性が減り、スムーズにコミュニケーションをすることができます。

 

リアルでの会話と比べて周囲からの目を気にする必要が少ないことは、対人関係に不安を感じやすい人にとっても安心材料のひとつになるでしょう。リアルでは環境に適応するために演技をしないといけないという人も、メタバースではありのままの自分でいられます。多様性という点においても、メタバースはさまざまな人の個性を受け入れる場所となり得るのです。