(※画像はイメージです/PIXTA)

UNWTO『Tourism Highlights 2020』によると、中国は「国際観光支出の5分の1を占める世界最大の支出国」です。毎年1億人超が海外旅行へ出かけていたコロナ前は、各国の観光地で大きな存在感を放ち、日本でも「爆買い」などでたびたび報道されました。海外観光客の需要回復が期待される今、中国人の海外旅行はどうなっているのでしょうか? 中川則彦氏(キャピタル アセットマネジメント株式会社)が、2023年前半の中国の観光事情を振り返るとともに、今後の見通しについて解説します。

「中国人のパスポート保有率はわずか5%」という“朗報”

2023年も半分終わりましたが、今の状況はどうでしょうか。新型コロナウイルスが収束した後も、これまでのように中国は世界の観光市場において圧倒的な地位であり続けるのでしょうか。

 

もうお分かりだと思いますが、答えはもちろん“イエス”です。世界旅行ツーリズム協議会(WTTC)によれば、中国人は人口の5%しかパスポートを持っていません。その点を踏まえると、ここからさらなる旅行者数の成長も期待できます。上流階級はもちろん新興の中流階級も、海外旅行を通じて経験や思い出を求め、これまで以上に旅行への支出を増やし続けるでしょう。

中国人の「旅行への関心」は確実に回復中

国内線のフライト状況は新型コロナウイルス蔓延(パンデミック)前の水準に近づいています。国内線グーグルフライトのデータによると、1月23日の週から旅客数の増加が始まりました。5月29日の週では、国内線の旅客数は前年同期比で19%増加し、パンデミック前の平均を5%下回る水準でした。4月24日の週と比較して、増加の勢いは衰えていません。

 

国際線は、ペースはゆっくりですが、回復を見せています。渡航制限、航空機の制約、パスポートやビザの発給遅延のために、国際線の戻りは弱いものとなっています。最新の国際線グーグルフライトデータによると、5月29日の週の国際線の旅客数は約60万人で、パンデミック前の平均水準を約58%下回っています。しかしながら、1月16日の週はパンデミック前の平均を93%下回った水準で、4月24日の週は64%下回った水準を考えると、大幅な改善と言えるでしょう。渡航先では、マレーシア便の回復が最も早く、パンデミック前の平均を5%下回った水準まで回復しています。一方、米国便の回復が最も遅れていて、パンデミック前の平均を98%下回っています。

 

旅行への関心は確実に戻っています。航空会社に関しては、中国の3大航空会社のアクティブ・アプリ・ユーザー数は、4月末では2019年の平均を13%下回ったのに対し、現在は2019年の平均を9%下回る水準まで回復しています。ユーザー数は1月23日以降、前年比で増加に転じました。旅行プラットフォームに関しては、中国の大手プラットフォームの週間アクティブ・アプリ・ユーザー数は現在、2019年の平均を0.27%下回っており、4月末の25%下回った水準から大幅に改善しています。また、これらのプラットフォームは2月27日以降、前年比でプラスに転じています。

2023年の「中国人の海外観光」の見通し

以上を踏まえ、2023年通年では何が期待できるでしょうか。

 

私たちは、2021年から2022年にかけて欧米で見られたのと同様のパターンが、中国でも加速度的に進むと予想しています。

 

【欧米】21年は近場の旅行で過ごすも、22年に“反動”…記録的な観光収入を得た国も

2021年の夏はワクチン接種が広まってから最初の夏になりましたが、ほとんどのヨーロッパやアメリカの人々は遠くには行かず、自国内または近隣諸国という近場の旅行で済ませました。というのも、米国と欧州の行き来は制限されたからです。

 

2022年の夏は、欧州通貨の大幅な下落を追い風に、多くの観光客が、特に米国から、ヨーロッパに押し寄せました。しかしながら、航空会社や空港の人員不足により、強い需要を満たすことは困難でした。メキシコ、特にプエルトリコのような国々は、米国人旅行者から記録的な観光収入を得ることができました。WTTCは2022年をプエルトリコの観光にとって歴史的な年と位置付けました。

 

【中国】回復プロセスは「欧米以上」の速さ…旅行者数は「年間1億人」まで戻る見込み

中国人旅行者も同様の回復を見せていますが、そのペースは速くなっています。なぜ速くなっているのでしょうか。

 

2021年と2022年の出来事を考えれば容易に理解できると思います。国によって予防接種率の水準や旅行への規制状況が異なり、それが旅行者の行動に影響を与えてきました。新型コロナウイルスへの懸念がなくなりつつある今、回復のプロセスはより速く、同じパターンをたどるにしても、時間軸は短くなります。

 

現在、中国人旅行者はアジア、特にタイとマレーシアへは行っていますが、ヨーロッパへの旅行は少なく、アメリカへの旅行はさらに少ない状況です。しかしながら、我々の見通しでは、航空機やスタッフの供給問題はすぐにでも解消され、海外旅行の需要は2019年の水準に近づくか、少なくとも次の春節までには現在の60%下回った水準から10%下回った水準に戻ると予想しています。

 

私たちの分析によれば、この見通しは現在進行中の回復プロセスを裏付けるものであり、業界各社も同様の見解を示し、自社の回復状況を発信しています。たとえば、シンガポール航空のように、過去70年間で最高の売上になっていることを報告している企業もあります。

 

以上のことから、2023年は、年間を通してみると、2014年から2019年にかけての5年間のように、年間1億人を超えるところまではいかないものの、それに近い水準にまで海外旅行者数が回復していくものと考えます。もっとも、中国経済は年末に向けて成長率が上向いていくとみられるものの、予想外に力強さに欠ける可能性もあるので、注意が必要でしょう。

「中国人観光客」の桁外れな存在感

中国と言えば、何といってもパワーですね。圧倒的な人口の多さです。最近はインドの人口の話題が出ていますが、旅行という点においては、中国の存在感は桁外れです。銀座を歩いていると、今は海外の旅行客では欧米人が目につきますが、近い将来また中国の団体ツアーが押し寄せ、そのパワーに圧倒されることでしょう。

 

次回は最後になりますが、日本をテーマにしたいと思います。

 

 

中川 則彦

生保、信託銀行、外資系運用機関、公的年金において、30年以上にわたり資産運用業務に従事。1995年より、株式ファンドマネージャーとして年金基金や投資信託等の運用に携わる。市場サイクル分析と個別企業の競争優位分析を駆使して、成長株を割安なときに仕込むGARP(Growth At Reasonable Price)スタイルで、外国株式運用を行う。

慶応義塾大学経済学部卒業、マンチェスター・ビジネス・スクールMBAファイナンス修了、CFA協会認定証券アナリスト。「世界ツーリズム株式ファンド」を運用。

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