日本人の労働時間は減少している…?「残業代なし」の会社による、統計に表れない“深刻な現実”【データで解説】

日本人の労働時間は減少している…?「残業代なし」の会社による、統計に表れない“深刻な現実”【データで解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

過労死や残業代不払いが問題となり、長時間労働の問題が指摘される日本。そのような「ブラック企業」を規制する法が整備され、データ上の労働時間は減少しているように見えます。しかしその裏側には、統計には表れない「ある問題」が隠されているのです。本記事では、弁護士である明石順平氏が、著書『データで見る日本経済の現在地 働くときに知っておきたい「自分ごと」のお金の話』(大和書房)より、日本の労働問題の現状について解説します。

労災が認められるケースは「3割にも満たない」という現実

 次に、労災(労働災害)に目を向けてみようか。労災とは、業務のために起こる災害、つまり事故や疾病のことだね。ここでは、脳・心臓疾患に係る労災請求件数と、支給決定件数の推移を見てみよう。

 

脳・心臓疾患に係る労災請求件数の推移(2001-2021年)
[図表5]脳・心臓疾患の労災請求件数 脳・心臓疾患に係る労災請求件数の推移(2001-2021年)

 

脳・心臓疾患に係る労災支給決定(認定)件数の推移(2001-2021年)
[図表6]脳・心臓疾患の労災請求に対する支給決定件数 脳・心臓疾患に係る労災支給決定(認定)件数の推移(2001-2021年)

 

 請求件数は、コロナ禍以降に急減したけど、それまでは増加傾向にあったんだね。直近2021年度の請求件数は753件、支給決定は172件で、うち死亡が57件。単純に請求件数に対する支給決定件数の割合を出してみると、約23%か。なんだか請求件数に比べて支給決定件数が減っているように見えるね。

 

例えば最も支給決定件数が多かった2007年度は392件、同年の請求件数が931件だから、請求件数に対する支給決定件数の割合は約42%。2021年度と比べると倍近くあるよ。

 

 そうだね。だんだん認定を厳しくしていっているように見える。では次に精神障害に係る労災請求件数と支給決定件数の推移について見てみよう。

 

精神障害に係る労災請求件数の推移(2001-2021年)
[図表7]精神障害の労災請求件数 精神障害に係る労災請求件数の推移(2001-2021年)

 

精神障害に係る労災支給決定(認定)件数の推移(2001-2021年)
[図表8]精神障害の労災請求に対する支給決定件数 精神障害に係る労災支給決定(認定)件数の推移(2001-2021年)

 

 こっちはコロナ禍以降も増加しているね。支給決定件数の方も増えている。直近2021年度は請求件数が2346件、支給決定件数が629件、うち未遂含む自殺が79件か。こちらも単純に請求件数に対する支給決定件数の割合を出してみると約27%。労災を請求しても、それが認容される確率は3割にも満たないんだね。

 

 そう。そしてこれは氷山の一角だ。精神障害の大きな要因の1つが長時間労働だが、日本の企業はきちんと雇用者の労働時間を記録していないところが多いから、労災申請しようと思っても、証拠がなくて泣き寝入りせざるを得ない場合が多い。そういったケースも統計には表れない。

 

 

明石 順平

弁護士

 

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データで見る日本経済の現在地

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明石 順平

大和書房

働いていくために必要な、「自分ごとの日本経済」。円安、物価高、低賃金…、これからも日本で働いていく私たちには不安ばかりが募ります。「僕らは日本で生きていけますか?」という、切実な問いに対してこの本はつくられまし…

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