(※写真はイメージです/PIXTA)

本記事は、マネックス証券株式会社が2023年6月23日に公開したレポートを転載したものです。

インフレが資金需要を喚起

要は「実質」と「名目」の問題だ。銀行に預けてもゼロ金利のもとでは利息が1銭も付かないのに、なぜみんな現金を保持しているのか? デフレのもとではそれでよかった。モノの値段のほうが下がるのだから、いま買わないで待てばいい。仮に10万円のパソコンが1年後に9万円で買えるなら、1万円(=10%)の利息が付くのと同じだ。これが「実質ベース」である。

 

インフレになればその逆だ。現金を持っていれば購買力が落ちる分だけ損をする。「実質金利」がマイナスなのだ。こうなったら借金の妙味が出てくる。マイナス金利というのは借り手が利息をもらえるようなものだからだ。それこそ、カネを借りてでも投資したほうが得だという状況になる。

 

実際に、僕の友人で、不動産投資が趣味というO嬢は、都内に億ションを何件も持っているくせに、このたび巨額の融資を銀行から引き出して、また新たに物件を購入したという。「いまは普通のサラリーマンに3億円程度なら住宅ローンを出す時代ですよ。広木さんもいかがですか?」などというのだ。

 

いったい、いくらなら借りていいのか? 今度、本当のところを、住宅ローンに詳しいMFS取締役COOの塩澤崇さんに尋ねてみよう。まあ、とにかくインフレが資金需要を喚起している、というのが今日のメッセージである。

 

これまでは低成長で資金需要が乏しい日本国内では銀行の貸出は伸びないというのが一般論であった。日本版金融危機を経て銀行に頼れなくなった企業が内部留保を進め、マクロ的には本来「借入れ主体」である企業が家計と同様に資金余剰を抱える存在となったことがもっと大きな構造問題としてその背景にあった。

 

1990年代はじめまでは、家計部門が主要な資金余剰部門であり、資金不足である企業や海外等に供給していた。企業部門は1990年代初めまでは資金不足であったが、それ以降資金余剰に転じた。企業の資金余剰≒投資不足≒低成長の原因という悪循環だったのだ。その悪循環をインフレが断ち切ろうとしている。

 

実際、上記の『小売業に多方面から追い風…日銀短観からみる「有望株」は?【ストラテジストが解説】』では、今年度の設備投資がすごいことになると書いたけど、すでにその兆候が出ている。

 

今朝の日経新聞1面トップの見出しは「設備投資最高31兆円」。2023年度の設備投資動向調査で、全産業の計画額は前年度実績比16.9%増の31兆6,322億円となったと日本経済新聞が報じている。当初計画ベースで初めて30兆円を超えたという。

 

EV、電池、AIなど投資先は幅広い。このトレンドが続けば、企業は資金余剰の状態から本来の資金不足に転換するのではないか。マクロ的な観点からも非常に重要なポイントである。

 

くどいようだが、「実質マイナス金利」であればカネを借りて投資したほうが得、ということだ。カネ持ちほどカネを借りるだろう。

 

理由1:カネ持ちは利に敏いからカネ持ちである。利に敏いカネ持ちがこの好機を見逃すはずがない。

 

理由2:カネ持ちはカネを持っているので返済に不安がないのでジャンジャン借りられる。

 

O嬢がその典型である。この資金需要を背景に銀行貸出はまだ伸びるだろう。YCC(イールドカーブ・コントロール)撤廃とか、つまらない材料はどうでもいい。日本の銀行に対する見方を大きなフレームワークで捉え直すべき時期である。

 

 

広木 隆

マネックス証券株式会社

チーフ・ストラテジスト 執行役員

 

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