「大便を漏らす」大事件で奇跡的に社会課題と出合う
排尿は誰もが日々行うものです。そのため、トイレ関連商品は需要も大きく、ウォシュレット機能や温かい便座をはじめ、課題を解決するさまざまな商品がこれまでに生まれてきました。しかし、同社が取り組んだ「排泄前」に着目した商品の研究開発は未開の領域だったといいます。
同社代表の中西敦士さんがこの「未開の領域」に着目するきっかけとなったのは、留学先のアメリカで大便を漏らすという大事件があったからです。この一連のストーリーは、中西さんの著書『10分後にうんこがでます』(2016年11月/新潮社)で克明につづられています。
幼い頃から起業願望があった中西さんは、まずは社会経験を積もうとベンチャー企業に就職。その後コンサルティング会社に転職し、新規事業のコンサルティング業務に携わります。サラリーマンとしてのキャリアを順調に積んでいたあるとき、JICA(青年海外協力隊)のポスターに出合い、会社を辞めてJICAの活動に応募することを決意。フィリピンに赴任することになります。
赴任先で、清潔とはいえない現地のトイレ事情を目の当たりにします。また、自身がアメーバ赤痢にかかって1日に100回ほどトイレに行く経験をしたこともあり、排泄・排便についての社会課題を強く感じました。ですが、このときはまだ起業には至りませんでした。
転機があったのは、2013年9月。留学先のアメリカの道の真ん中で大便を漏らす大事件を起こしたのです。直後、絶望感でいっぱいになり、「うんこなんかなくなればいいのに!」という気持ちが沸き上がったといいます。そのとき、偶然なのか必然なのか、目にしたのが「大人用おむつの売上高がはじめて子ども用おむつを上回る」というWEBニュースでした。
「ユニ・チャームが高齢化社会の到来に備えて、おむつ事業の軸足を子ども用から大人用に移す」とする趣旨の記事を読み、「世の中にはこんなにも排泄で困っている人が多いのか」と自身の状況と「奇跡的」に照らし合わせながら知ります。当時、ベンチャーキャピタルでインターンをしていた中西さんは、他に20~30個のビジネスアイデアを考えていたといいます。しかし、絶望的な自身の体験を機に、その体験こそが実は多くの人が悩む社会課題であったと気づくのです。「自分の一生をかけて取り組みたい課題」に中西さんが出合った瞬間でした。