「2.7億円のコスト削減」でも「採用200名超」…富士通、激化する「高度専門人材」獲得競争で“勝ち組”になったワケ

「2.7億円のコスト削減」でも「採用200名超」…富士通、激化する「高度専門人材」獲得競争で“勝ち組”になったワケ
(※写真はイメージです/PIXTA)

信頼できる友人・知人からの紹介を通じて人材を獲得する採用手法、「リファラル採用」。従来の採用方法よりコスト削減でき、ミスマッチを抑制できるなどさまざまなメリットがあります。リファラル採用を成功させるには、どんな準備・実践が求められるのでしょうか? 鈴木貴史氏の著書『人材獲得競争時代の戦わない採用「リファラル採用」のすべて』(日本能率協会マネジメントセンター)より一部を抜粋し、成功事例として「富士通株式会社」を紹介します。

富士通株式会社

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【企業データ(2022年3月末現在)】

従業員数:連結124,200名/単独34,400名

業種:ITサービス

領域:キャリア採用

採用目標:年間約300名(※キャリア採用全体)

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「リファラル採用」の導入背景

富士通は、国内でおよそ3万4千名、連結で12万名の社員がおり、「DX企業」を掲げてデジタル技術とデータを駆使した事業の変革を進めています。そのなかで、ソフトウェア開発を担える人材の獲得が急務となり、新たな採用チャネルを求めていました。

 

長らく日本の大手企業の王道であった新卒一括採用をメインとしていたものの、2015年よりキャリア採用に本格的に取り組み始めました。当初はエージェントを経由しての採用を中心に、100名規模の採用を行っていました。

 

その後、DX企業に変革をしていく過程で、より高度専門人材を採用していくことが喫緊の課題となり、転職潜在層に自らアプローチしていく必要性からリファラル採用に着目したのです。

 

国内には3万4千名の富士通の社員がいるため、その社員には無数のつながりがあります。一般的に、現役世代はSNSを含めて1人当たり300人とつながっているとされており、単純計算で1,000万人近くの人脈が候補者対象と捉えられることは非常に魅力的です。

 

では、この人脈を最大限活用して、これまでの採用では出会えなかった専門人材にアプローチした富士通のリファラル採用事例をステップ毎にご紹介します。

段階的な制度設計と社内展開

【準備:丁寧な制度設計と段階的な展開】

大規模な組織を動かしていくことになるため、いきなり「リファラル採用を実施します!」と宣言するのではなく、段階的に制度設計と社内展開をしていきました。

 

例えば、インセンティブに関しては社内で検討したうえで、他社平均と同等の水準に設定することで落ち着きました。その議論に際しても、社内の労務や法務とのディスカッションを経て、慎重に制度を設計しています。

 

さらに、いきなり全社に広げるのではなく、一部の部門で「トライアル期間」を設け、スモールスタートとしました。そこで感触を確かめてから、段階的に全社で展開していきました。

 

【認知:全社的な取り組みであることを内外にアピール】

社内に認知を広めていく際には、「人事部門のトップから全社員に対してメッセージを配信」していき、経営層・上長からの巻き込みを意識しました。また、自社内のイントラネットでもリファラル採用の専用ページを作成し、社外向けの採用HPでもリファラル採用についての説明を掲載しました。

 

そのため、社員はリファラル採用の制度概要について、専用ページを見に行けば一目でわかるようになりました。また、社員とつながりのある候補者も、リファラル採用を実施していることを社外からでも認知できるようになっています。

 

【共感:継続的な広報で協力者を増やす】

全ての企業において言えることですが、リファラル採用においては草の根的な活動がとても重要になります。富士通でも、人事部門の担当者が各部門の会議体に足を運び、リファラル採用の意義を伝え続けました。キャリア採用や新卒の入社者向け導入研修で、リファラル採用について発信もしていきました。

 

また、リファラル採用で決定した社員のインタビューを社内報で伝え、その意義や実績が浸透していくよう努めました。

 

【行動:紹介しやすい環境を整備】

スマートフォンから、いつでもどこでも紹介ができるツールであるMyReferを活用して声掛けの機会損失が起きないように留意しました。転職潜在層もカジュアルに参加できる採用イベントを実施するなど、とにかく紹介ハードルを下げる取り組みを実施しました。

 

また、一度促進して終わりではなく、リファラル採用を推進していく過程で定期的に社内アンケートを実施し、振り返りを丁寧に行っています。

 

【実績:累計200名超の採用に成功

リファラル採用によって累計で200名を超える採用につながり、従来の採用手法のみの場合と比べても2.7億円のコストカットを実現できました。獲得競争が激しいAIや先端技術のエンジニアの採用も実現できています。

 

またアンケートの結果から、リファラル採用活動を通じて入社者のミスマッチを減らすことができ、入社者と受入職場の双方のエンゲージメントが向上していることがわかっています。

 

出所:鈴木貴史著『人材獲得競争時代の戦わない採用「リファラル採用」のすべて』(日本能率協会マネジメントセンター)
【図表】リファラル採用の成功事例:富士通株式会社 出所:鈴木貴史著『人材獲得競争時代の戦わない採用「リファラル採用」のすべて』(日本能率協会マネジメントセンター)

取り組みのポイント

3万4千名を巻き込むとなると、難易度が高そうだと怯む気持ちも生まれるかもしれません。しかし、丁寧に社内の調整を行って、まずはスモールスタートで成果を出し、その実績を踏まえて全体に広げていったことでプロジェクトを成功させることができました。

 

 

大企業の人事担当者からは、「リファラル採用は社内から反発が出るのではないか」との声を耳にすることがあります。しかし、富士通の場合はトライアル期間を経てアンケートをとった結果、むしろ前向きな意見が多かったのです。「求人内容や企業情報をもっとこういうふうに記載したら、より紹介しやすいのではないか」といったフィードバックがあったほどでした。

 

トライアルをすることで、リファラル採用を社員がどう受け止めているのかが見えてきます。また、富士通の場合には、よりレベルアップできるポイントも見つかりました。

 

 

鈴木 貴史

株式会社TalentX(旧株式会社MyRefer) 代表取締役CEO

 

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※本連載は、鈴木貴史氏の著書『人材獲得競争時代の戦わない採用「リファラル採用」のすべて』(日本能率協会マネジメントセンター)より一部を抜粋し、再編集したものです。

人材獲得競争時代の戦わない採用「リファラル採用」のすべて

人材獲得競争時代の戦わない採用「リファラル採用」のすべて

鈴木 貴史

日本能率協会マネジメントセンター

時は大人材獲得競争時代。 経営者、人事担当者、現場の責任者など、採用に関わる人は日々熾烈な人材獲得合戦に巻き込まれています。競合他社と戦い、市場と戦い、時間と戦い、費用と戦い、従来の採用手法の延長に安息の地はあ…

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