(※画像はイメージです/PIXTA)

労働人口の減少や企業の生産性低下に伴い、終身雇用制度の崩壊が取り沙汰されています。制度自体には、社歴が浅かったり年齢が若かったりすると正当な評価を受けにくい、といったデメリットもあるものの、実は日本企業にとって終身雇用制度は失くなるほうがリスクは高いと、NTTデータ経営研究所グローバルビジネス推進センターのシニアスペシャリスト岡野寿彦氏はいいます。本記事では、日米の研究者が論じた「日本的経営」についての論考をもとに、日本企業の特徴について分析します。

失われた30年の中でも成長…日本の優秀企業がとった戦略

(※画像はイメージです/PIXTA)
(※画像はイメージです/PIXTA)

 

ウリケ・シェーデ著『再興THE KAISHA』:日本のビジネス・リインベンション』(日本経済新聞出版、2022年)は、日本で「うまくいっている(得意な)こと」にレンズを向けて、日本企業の「再興(リインベンション)」の独自性を明らかにすることを目的に、日本企業のうち2割のハイパフォーマー企業の戦略と組織マネジメントの取り組み、課題を分析している。

 

「失われた30年」といわれる中でもこれら優秀企業は、継続した改善活動で一貫性を持って高い品質を実現するという「強み」は維持しながら、同時に、中国の台頭や北東アジアの競争動向に対応してオペレーションを再編し重要な部品や素材などでディープテック(深層技術)のコンピテンシー構築を「両立」させていると指摘する。

 

そして、このような高度な技術を必要とし模倣が難しく、複雑で規模の拡大が見込めないニッチ製品を集めることで、サプライチェーンで不可欠なポジションを確保する戦略を「集合ニッチ戦略」と称している。

 

ウリケ・シェーデは、「ルーズな文化」、「タイトな文化」という社会科学のフレームワークをもとに、これら日本の優秀企業の経営変革は、日本社会のタイトな文化的文脈のもとで時間をかけ社会的な安定とのバランスをとりながらゆっくりと着実に進めることに、米国と異なる独自性があると強調する。

 

デジタル技術を活かしてニッチなディープテックによる「集合ニッチ戦略」をグローバルで展開するためには、継続的な改善で築き上げた高度な「ものづくり」の組織能力(図表3)に加えて、飛躍的イノベーションにつながる仕組み[図表4]を導入する、「両利きの経営」が土台となる。

 

(出所)ウリケ・シェーデ(2022)図表8-1。
[図表3]ものづくりにおける適合モデル (出所)ウリケ・シェーデ(2022)図表8-1。

 

(出所)ウリケ・シェーデ(2022)図表8-2。
[図表4]飛躍的イノベーションにおける適合モデル (出所)ウリケ・シェーデ(2022)図表8-2。

 

安全、確実性、予測可能性、体系的な適正手続きが好まれる日本の「タイト」な文化のもとで、創造性とスピード、アジリティ(敏捷性)を育む「ルーズ」な仕組み、マインドの「両立」を進めるためには、日本企業の行動規範に基づいて、あらゆる利害関係者に配慮し、社会のすべての部分に敬意を払いながら、バランスをとって変革を実行することが適切であると結論付けている。

 

そして、企業が「両利きの経営」を実行するフレームワークとして、「ネットとリアルの融合と『両利きの経営』」(第6章第2節)でも解説した、「重要タスク」、「人材」、「組織・人事システム」、「カルチャー(行動様式)」の4要素の組み合わせ・連携をマネジメントするためのツールである「適合モデル」を提案している。

 

 

岡野 寿彦

NTTデータ経営研究所グローバルビジネス推進センター

シニアスペシャリスト

 

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