(※画像はイメージです/PIXTA)

労働人口の減少や企業の生産性低下に伴い、終身雇用制度の崩壊が取り沙汰されています。制度自体には、社歴が浅かったり年齢が若かったりすると正当な評価を受けにくい、といったデメリットもあるものの、実は日本企業にとって終身雇用制度は失くなるほうがリスクは高いと、NTTデータ経営研究所グローバルビジネス推進センターのシニアスペシャリスト岡野寿彦氏はいいます。本記事では、日米の研究者が論じた「日本的経営」についての論考をもとに、日本企業の特徴について分析します。

日本の国際競争力の源泉は「組織的知識創造」

(※画像はイメージです/PIXTA)
(※画像はイメージです/PIXTA)

 

野中郁次郎・竹内弘高著『知識創造企業』(東洋経済新報社、1996年)は、新しい知識を創り出し、組織全体に広め、製品やサービス、業務システムに具体化する組織全体の能力を「組織的知識創造」と名付け、日本企業の国際競争力の最も重要な源泉だとした。 

 

野中らは人間の知識を「形式知(explicit knowledge)」と「暗黙知(tacit knowledge)」の2つのタイプに分類している。

 

「形式知」は、文法にのっとった文章、数学的表現、技術的仕様、マニュアルなどに見られる形式言語によって表すことができる知識であり、伝達が容易である。一方の「暗黙知」は、人間一人ひとりの体験に根差す個人的な知識であり、信念、ものの見方、価値システムといった無形の要素を含むため、形式言語で表すことが難しい。

 

イノベーションなど知識創造においては、まだ言葉にしきれないイメージのような漠然とした「暗黙知」を粘り強く育てる作業が必要であり、これを企業内のグループで組織的に行っていることが、日本企業の競争力の源泉だと指摘する。

 

野中らは形式知と暗黙知の相互作用が企業による知識創造の鍵だとして、形式知と暗黙知とが相互に作用し合って変換していくプロセスを説明するために、4つの知識変換モードを提示した。

 

①共同化(socialization) 個人の暗黙知からグループの暗黙知を創造する

②表出化(externalization) 暗黙知から形式知を創造する

③連結化(combination) 個別の形式知から体系化された形式知を創造する

④内面化(internalization) 形式知から暗黙知を創造する(→①に戻る)

 

「共同化」では、観察・模倣・練習、OJTなどを通じて経験を共有することで、個人の暗黙知が伝授・移転されてグループの暗黙知となる。

 

「表出化」では、共同化で創造されたグループの暗黙知が言語化・概念化されることで形式知に変換される。共同化においては直接体験を共有する人々の知識に限定されていたが、表出化において形式知化されることで、集団の知識として発展することができる。

 

「連結化」では、異なる形式知を統合して体系化することで、新たな一つの知識体系が創り出される。

 

「内面化」では、連結化で得られた体系的な形式知が個人の学習によって、自分の知識として暗黙知ベースで内面化される。そして、他者の知識を学習したメンバーが再び次の知識創造に関わることで、組織に新しい知識が拡散していくことになる。

 

西洋型組織と日本型組織の知識創造のスタイル

以上の形式知と暗黙知との相互変換プロセスの定義を踏まえて、野中らは欧米と日本の知識創造のスタイルの違いについて、図表2のように比較している。

 

(出所)野中・竹内(1996)に基づき筆者作成。
[図表2]知識創造のスタイル 西洋型と日本型の比較 (出所)野中・竹内(1996)に基づき筆者作成。

 

西洋型組織では、暗黙知と形式知の相互循環がもっぱら個人で起こる。コンセプトは経営トップや製品アイデア推進者の「表出化」努力を通じて創り出され、それから組織的に新しい製品、サービス、経営システムに「連結化」されることが多い。

 

これに対して日本型組織では、暗黙知と形式知の相互作用がグループのレベルで起こる傾向がある。ミドル・マネジャーに率いられたチームが暗黙知の「共同化」を進め、トップのビジョンや事業現場の情報と相互作用を起こす。

 

このような濃厚な人間交流が、最終的な製品、サービス、経営システムなどへ向けた中間コンセプトを生み出す、と野中らは論じている。

 

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