「おしぼり」は神の食事の前に清めるためにある
食べものは元々は命のあった神様の食事であり、お箸は、その神様の食事のお裾分けをいただくための神聖な道具。そして、おしぼりは、神様と共に食事をする前に手を清めるためのものです。
したがって、おしぼりを使うのは自分の手を清めるときだけ、つまり「食事の前だけ」と覚えておいてください。
洋食のナプキンは、口や手を拭うために食事の間ずっと使うもので、お店の人とのコミュニケーションツールでもあります。おしぼりとナプキンとでは、存在している理由も役割も根本的に違うのです。
きちんとしたお店だと、おしぼりは使ったらすぐに下げられます。食事の前に手を清めるためのものと考えれば、それも納得でしょう。
下げられなかったとしても、食事の前に手を清めたら、もう基本的におしぼりの出番はありません。食事の最中に誤って手が汚れたときは使ってもかまいませんが、おしぼりで口を拭くのはNG。テーブルを拭くなんて、絶対にいけません。
口を拭いたいときや何かを少しこぼしてしまったとき、グラスから落ちた水滴を軽く拭きたいときなどは、まず自分のティッシュやハンカチ、懐紙で押さえましょう。
もしティッシュでは拭いきれないくらい、こぼしてしまったときは、慌てず騒がず、その後に直ちにお店の人を呼んで、まずは謝罪し、対応してもらいます。お店のものがシミになりそうな場合は、帰り際にサッとクリーニング代を渡せると、よりスマートです。
個性豊かな、和食ならではの「器」を愛でる
和食器は扱いづらい──よく言われることです。
なぜかというと、和食器は形も大きさも多様だから。つまり器を重ねて収納しづらいのです。そしてなぜ形も大きさも多様かというと、お料理によって細かく器を使い分けるからです。
フレンチやイタリアンでもお皿を使い分けますが、大きく分けて前菜やメイン料理を盛る平皿、パンを乗せる小さめの平皿、デザート皿、スープを入れる深皿の数種類くらいしかありません。
中国料理は基本的に取り分けるスタイルですから、料理を盛る大皿と、取り分け用の小皿やボウルが大小それぞれあるくらいです。
しかし和食では、器も盛り付けの一部です。
「世界一繊細」な和食の“共通項”
盛られている料理だけでなく、料理それぞれの個性に合わせた器ごと愛でるという発想があるので、一流の料理人は器にもこだわるのです。大量生産ではない、作家ものの特別な形状の器を取り入れているお店もあります。
日本人は、家庭内でも当たり前のように食器を使い分けています。
たとえば、ごはんが汁椀に入っていたら、ものすごく違和感がありませんか? 「ボール状の食器」という点では同じでも、ごはんはごはん茶碗、お味噌汁は汁椀に入れるものであって、兼用ではありません。
また、お箸もお茶碗も湯吞みも、自分専用のものがあるのではないでしょうか。
こういう点からしても、日本人は、もともと器に対する感度が強いのではないかと思います。「世界一繊細」と海外で評される和食の共通項と考えます。
今後、上質なお店で和食をいただく機会があったら、ぜひ器にも目を向けてみてください。楽しみがいっそう広がり、料理も、よりおいしく感じられるはずです。
ネイルやアクセサリーで器を傷つけることや、器を引きずることは禁物ですが、器を愛でる意識があれば、こうした無作法も働かずに済むでしょう。
株式会社トータルフード代表取締役
小倉 朋子