2009年に世界最大の「自動車市場」となるも…「中国」が独自ブランド車で海外メーカーと戦えないワケ

2009年に世界最大の「自動車市場」となるも…「中国」が独自ブランド車で海外メーカーと戦えないワケ
(※画像はイメージです/PIXTA)

中国の自動車市場は2009年に世界最大となっています。しかし、それほど大きな市場規模を誇るにもかかわらず、ガソリン車やハイブリッド車では、中国独自のブランド車は海外メーカーと互角に戦えてこなかったと、NTTデータ経営研究所グローバルビジネス推進センターのシニアスペシャリスト岡野寿彦氏はいいます。いったいなぜなのでしょうか? 中国製造業が歴史的に抱える課題から、理由を紐解いていきます。

製造業に関する中国政府の政策

中国政府の製造業に対する産業政策は、1990年代以来次の2点に重点が置かれてきた。

 

・自主技術の推進・自国製造企業の実力強化。

・小規模で国際競争力を欠く企業が乱立しているのを集約化し、国際競争力ある企業を育成する。

 

 

 

中国において、政府が奨励する市場、成長可能性がある市場に多くの企業が参入して過当競争になることが歴史的に繰り返されている。

 

丸川(2020)**は、中国政府による鉄鋼業の産業再編(企業の集約化)において中央政府直属の大型国有鉄鋼メーカーを再編の核とする方針のために、競争力のない大型国有メーカーの座を新興民間メーカーが奪っていくという市場メカニズムが機能せず、効率の悪いメーカーを温存することにつながっている、と指摘する。

 

中国製造2025

中国政府は、2015年に中国製造業の発展を目指す行動計画として「中国製造2025」を公布した。「製造大国」から「製造強国」への転換を目標とする国家戦略である。製造強国を目指すうえで、高度な中間素材、部品、製造装置について2025年までに7割を国内で生産することを目指すことも盛り込まれている。

 

中国政府が「中国製造2025」を制定した背景認識には、①情報技術と製造業の融合が進み、グローバルな産業構造の変化が起きている、②人件費などの上昇により、中国製造業の優位性の源泉だったコスト競争力が失われていく、③自主開発能力、製品品質など先進国との差が大きい、などの状況認識に基づき、このままでは「先進国と発展途上国との板挟み」になってしまうという危機感がある。

 

「中国製造2025」では9つの戦略ミッションを定めている。

 

(※画像はイメージです/PIXTA)
(※画像はイメージです/PIXTA)

 

①製造業のイノベーション能力の向上

市場指向で、企業を主体に、政府・大学・産業による研究と応用が融合した製造業イノベーション体制を整備する。コア技術研究を強化し、研究成果の実用化を促す。

 

②情報化と工業化の高度な融合の推進

次世代情報技術と製造技術の融合を発展させ、インテリジェントな設備とスマート商品の開発に注力する。

 

③工業の基礎能力の強化

コア部品、コア先進技術、コア基礎材料など「モノづくりの基礎能力」が弱いことは、製造業のイノベーションによる発展と品質向上を阻害する重大要因であり、これを改めなければならない。

 

④品質とブランドの強化

企業による高品質の追求を奨励する。独自の知的財産権を有するブランド商品づくり、企業ブランド価値と「メイド・イン・チャイナ」の全体的イメージの向上に努める。

 

⑤グリーン(環境保全型)製造の全面的推進

先進省エネ技術、技能、設備の研究開発を強化し、グリーン製造を加速する。積極的に低炭素化、循環化、集約化を推進し、製造業における資源の利用効率を高める。

 

⑥重点分野の飛躍的発展の推進

戦略分野に重点を置き、社会の各分野から資源を集中させ、優位性のある産業と戦略産業の発展を加速する。具体的な重点分野として次の10分野を挙げている。

 

・次世代情報技術・高度なデジタル制御の工作機械とロボット

・航空

・宇宙設備

・海洋エンジニアリング設備とハイテク船舶

・先進的な軌道交通(鉄道)設備

・省エネ・新エネルギー自動車

・電力設備

・農業機械

・新素材

・バイオ医薬と高性能医療機器

 

⑦製造業の構造調整の推進

伝統産業のミドル・ハイエンドへの進化(高付加価値化)を推進し、徐々に過剰生産能力を解消する。大企業と中小企業の提携を促進し、製造業の全体配置を最適化する。

 

⑧サービス型製造と生産関連サービス業の推進

製造とサービスとが融合した発展を強化し、ビジネスモデルのイノベーションと新しい業態の開発、生産型製造からサービス型製造への転換を促進する。

 

⑨製造業の国際化レベルの向上

国内外の資源と市場を有効に利用し、より積極的な開放戦略を推進する。外資誘致と海外進出を融合させ、新しい開放分野を開拓する。

 

中国製造2025に対して米国政府は警戒感をあらわにし、2017年には米国通商法301条に基づき中国への調査を開始。2018年には中国製造2025の重点分野などを対象に関税を追加する大統領令にトランプ大統領が署名した。

 

米国や同盟国の技術アドバンテージが失われつつある中で中国が政府主導で技術開発力を強化しハイテク産業競争力を高めることに対して、産業競争力および軍事面で警戒を強めたことが背景にあるとされる。

 

中国政府は自国製造業の「量から質への転換」を掲げ、人件費の上昇やデジタル技術の進展に対応して自国で生産する製品を、労働集約型から高付加価値製品にシフトする政策を進めている。

 

さらに、米中対立を契機に自律的なサプライチェーンを構築するために外国に依存する脆弱な技術領域の自立を重視し、自国製造企業の育成に時間をかけてでも取り組もうとしている。

 

第14次5カ年計画(2021~25年)で基礎研究の重視を強く打ち出すとともに、ハードウェア技術・製品開発の競争力を高めるためにIoTプラットフォームの構築を推進している。また、EVに代表されるように自国企業に優位なルール・市場形成に取り組んでいる。

 

【参考文献】
* 服部健治・湯浅健司・日本経済研究センター編『中国 創造大国への道:ビジネス最前線に迫る』(文眞堂、2018年)


** 丸川知雄著『中国の産業政策の展開と「中国製造2025」』(比較経済研究、2020年)

 

※本記事は、岡野寿彦氏の著書『中国的経営イン・デジタル 中国企業の強さと弱さ』(日経BP 日本経済新聞出版)から一部を抜粋し、幻冬舎ゴールドオンライン編集部が本文を一部改変しております。

 

 

岡野 寿彦

NTTデータ経営研究所グローバルビジネス推進センター

シニアスペシャリスト

 

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中国的経営イン・デジタル 中国企業の強さと弱さ

中国的経営イン・デジタル 中国企業の強さと弱さ

岡野 寿彦

日経BP 日本経済新聞出版

中国的経営の原理とは? 日本的経営とどう違うのか? 先進IT企業のケーススタディを通して、中国企業の「型」を解き明かし、日本企業にとっての教訓をさぐる。 なぜ中国企業は「両利きの経営」を目指すのか?  ●政府…

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