2009年に世界最大の「自動車市場」となるも…「中国」が独自ブランド車で海外メーカーと戦えないワケ

2009年に世界最大の「自動車市場」となるも…「中国」が独自ブランド車で海外メーカーと戦えないワケ
(※画像はイメージです/PIXTA)

中国の自動車市場は2009年に世界最大となっています。しかし、それほど大きな市場規模を誇るにもかかわらず、ガソリン車やハイブリッド車では、中国独自のブランド車は海外メーカーと互角に戦えてこなかったと、NTTデータ経営研究所グローバルビジネス推進センターのシニアスペシャリスト岡野寿彦氏はいいます。いったいなぜなのでしょうか? 中国製造業が歴史的に抱える課題から、理由を紐解いていきます。

中国製造業が直面する課題

(※画像はイメージです/PIXTA)
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中国企業が動員力を活かした労働集約的な「オープン・モジュラー型製品」を得意とするという藤本ら(2007)が示した特徴は、15年以上を経た現在でも基本的に変わっていない。中国企業の二層の組織構造や運営の特徴から、トップダウンによるスピード、動員力との「相性」が良い製品・モデルの事業を展開しようとする傾向が強い。

 

製造業に限らず、アリババ、テンセントに代表されるプラットフォームビジネスも、デジタル技術と人海戦術との組み合わせで多くのイノベーションを生み出してきた。支付宝(アリペイ)や微信支付(We Chat Pay)の普及は、決済手数料の安さ、決済端末がなくても導入可能など仕組みの秀逸さに加えて、加盟店の開拓に数千社のITシステム会社やマーケティング会社が走り回った動員力が下支えをしている。

 

フードデリバリーや配車サービスも、配送員や運転手を大量に確保してリアルサービスを担わせることで社会に定着させた。

 

一方で、研究開発力はファーウェイなど一部企業を除いていまだ脆弱との評価が一般的である※3。以下、中国製造業で研究開発力が定着しなかった要因について歴史的経緯から分析する。

 

※3 「中国製造2025」など中国政府政策における現状認識と、中国企業人へのヒアリングに基づく。

 

研究開発投資を節約して「低価格」を競う市場

藤本ら(2005)および藤本ら(2007)は、中国のオートバイ、トラクター、小型トラック、テレビ、白物家電の製造において、「部品のコピーと改造を通じた製品のアーキテクチャの換骨奪胎」が頻繁に観察されると指摘する。

 

「アーキテクチャの換骨奪胎」とは、日本では摺り合わせ型製品として発達したオートバイなどが、中国では模倣と改造の繰り返しによって汎用部品の寄せ集めであるオープン・モジュラー製品にすり替わってしまうことを指している。

 

後発の製造企業にとって、リバース・エンジニアリング(機械を分解したり、製品の動作を観察したり、ソフトウェアの動作を解析するなどして製品の構造を分析し、そこから製造方法や動作原理、設計図などの仕様やソースコードなどを調査・復元するプロセス)を通じた組織学習は、製品開発の能力を蓄積するために有効なプロセスだとされる。

 

しかし、藤本らによると、中国のオートバイ産業では、一部のローカル企業がホンダなど外国設計のオートバイの部品を単純にコピー・改造して汎用部品のように寄せ集めることで、低価格のオートバイを市場に供給することが観察される。

 

これにより、外国メーカーのみならず、ローカル企業のリバース・エンジニアリング活動も、経済的に引き合わないレベルの低価格とスピードを争う市場が形成された。中国ローカル企業は研究開発やリバース・エンジニアリング活動に投資するインセンティブを持てず、オリジナル設計モデルを生み出す力を持てないまま停滞してしまったのである。

 

一方、家電製品は、自動車やオートバイと比べてモジュラー・アーキテクチャの性格が強い。中国企業はオープン・モジュラー型の製品と「相性」の良い組織能力を備えることが多く、競争力を持ちやすいはずだ。しかし、中国家電メーカーの主たる市場は中国国内であり、欧米、日本など海外市場ではブランドを確立しているとはいえない。

 

中国市場においても、ハイアールに見られる人海戦術的な手厚いアフターサービスによって顧客満足を得ている面が強い。国家の重点産業として政策的支援を受けられた自動車業界と異なり、家電産業においては研究開発投資をできる限り節約して競争に生き残る戦略がとられたことが背景にある。

 

藤本ら(2005)はハイアールの製品開発について、開発人員をプロジェクト型組織に迅速・柔軟にアサインし、既存の設計資源を寄せ集めて活用するモジュラー型寄りの製品開発だと指摘している。

 

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中国的経営イン・デジタル 中国企業の強さと弱さ

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岡野 寿彦

日経BP 日本経済新聞出版

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