(※写真はイメージです/PIXTA)

新規ビジネスの重要性が叫ばれる昨今。次々に新しい企業が生まれていますが、中小企業庁『 小規模企業白書 』によると、5社に1社が5年後には存在しない、という厳しさです。そのようななか、新規ビジネスが市場で生き残るには、ブランディングが必須であると、ブランディングコンサルタントの稲葉大智氏はいいます。本記事では、一時は倒産の危機へ陥るも、大復活を遂げた「Apple」の事例とともに、新規ビジネスにおけるブランディングの重要性について解説します。

「Think Different」でトップに君臨したApple

今回は「Apple」の事例を軸に、WHYの3つの観点を紐解いてみようと思います。

 

Appleはあるキャンペーンのなかで、「Appleは、世界を変えられると本気で信じる人たち(クレイジーな人たち)のための道具を作る」という旨のメッセージを発信しました。1997年に実施された「Think Different」キャンペーンです。

 

Appleの創業当時の理念は「Change the world one person at a time.(世界を変えよう、1人ずつ)」。AppleはこのThink Differentキャンペーンで創業当初の理念・存在意義を改めて明確化し、結果、存亡の危機からの大復活を遂げました。その後は市場トップランナーとして君臨し続けていることはいわずもがなですね。

 

WHYの役割1:リーダーシップを発揮する

社会に対しての強烈な使命感を伴うAppleの存在意義が改めて明確化されたことで、存亡の危機にあったAppleの社員は鼓舞され、奮起しました。もちろん、スティーブジョブズの功績によるところも大きいですが、明確化された理念=WHYなくしてこのような現象は起きなかったでしょう。

 

社員は1人ひとりが誇りと帰属意識をもって、会社の使命を自分の使命と捉えて働いたのです。結果、イノベーティブで洗練された製品が次々と生み出され、市場での存在感を大いに高めました。

 

さらに帰属意識を持つのは社員だけではありません。WHYに起因する「世界を変える」「現状に挑戦する」「ユニークである」というApple独自の「ストーリー」に対して、生活者は共感し、その一員でありたいと感じたのです。そして、長くApple製品やサービスを愛用し続けるようになりました。

 

このように、明確で使命感を持ったWHYは優れたリーダーシップを発揮して人々を惹きつけ、社員を鼓舞し、市場を牽引するのです。

 

(出所:YRK and 事業変革のヒントが見つかる Re/BRANDING magazineコラム)
[図表3]明確で使命感を持った「WHY」は市場を牽引する (出所:YRK and 事業変革のヒントが見つかる Re/BRANDING magazineコラム)

 

WHYの役割2:差別優位性を生む

すでに上述したWHYに起因するApple独自の「ストーリー」、これこそが差別優位性の正体です。ストーリーが差別優位性になるとはどういうことか。

 

高度経済成長期、生活者は物質的な豊かさを追求してきました。そこでは、利便性が高いモノが求められてきました。つまり生活者は「機能」を欲しがったのです。しかしその後、現代にかけて経済が成長するなかで、多くのモノは機能面での差が生まれなくなってきます。

 

そこで生活者が求めたのが情緒性、つまり「デザイン」です。そしてさらに時間は進み、いま現在はどうでしょうか。多くの生活者が物質的に満たされており、ほとんどのモノゴトが機能はおろか、デザインも含めてコモディティ化しています。

 

この段階で生活者が求めたものが、モノゴトを買う理由であり意味、つまり「ストーリー」だったのです。機能やデザインが一緒ならば、モノゴト・ブランドに対して「いかに共感できるか」「いかに自分にとっての意味を感じるか」ということが、生活者の購買における判断基準になり始めているのです。

 

(出所:YRK and 事業変革のヒントが見つかる Re/BRANDING magazineコラム)
[図表4]生活者は購買時に「ストーリー」を求めている (出所:YRK and 事業変革のヒントが見つかる Re/BRANDING magazineコラム)

 

スマートフォン市場は、機能やデザイン面での画一化が進み、現在ではほぼ完全にコモディティ化しています。そのなかでAppleが選ばれ、愛され続け、シェアトップでいられる理由がここにあります。

 

つまりWHYに基づく、他社が模倣できない独自のストーリーを保有することが人々を惹きつけ、市場において大きな差別優位性を持つことになるのです。

 

WHYの役割3:指針・判断基準になる

「Think Different」キャンペーンを行った1997年、Appleは当時取り扱っていたプリンタ、サーバ、モニタ、デジタルカメラなど、コンピュータ関連の製品を切り捨て、コンピュータとOSというコア事業に専念しました。それはなぜか。

 

「世界を変えよう、1人ずつ」。Appleはこの理念を改めて追求した結果“最高のモノを創る、最高のコトをやる”という思想に行きつきました。そして最高のモノをつくるために、最高のコトをするために、コア事業に専念してリソースを重点投下したのです。

 

さらに、Appleの理念は「最高のモノ、最高のコトはシンプルで美しくあらねばならない」という思想のもと、製品とサービスにまで落し込まれています。アップルの製品やサービスはどんなものかと問われれば、「洗練されたデザイン」「高機能なのにこの上なくシンプルな操作性」といったイメージがすぐに思い浮かぶのではないでしょうか。

 

(出所:YRK and 事業変革のヒントが見つかる Re/BRANDING magazineコラム)
[図表5]Apple製品 (出所:YRK and 事業変革のヒントが見つかる Re/BRANDING magazineコラム)

 

Appleは組織の在り方から、製品・サービスの在り方、そしてその他すべての企業活動においても、一貫した態度と行動をとり、結果としてブレの無い強靭なブランドを築き上げることに成功しました。これはAppleがWHYという指針・判断基準に忠実にあり続けた結果なのです。

 

このAppleの事例からの示唆は、ビジネスを始める時点でWHYを明確化することができれば、それがビジネスの基盤となり、成長を生み出し、ビジネスは持続可能性を獲得することができるということです。そう、WHYこそが新規ビジネスのブランディングにおけるコアなのです。

 

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