全額負担する必要はない
本件では、自損事故を起こした元従業員が会社から、修理費等の物的損害の全額を請求されている事案です。
本事案において法律上問題となる争点は、
①損害の金額が適切か
②損害の負担割合が適切か
です。
会社側の対応に対して、どのような対応をするべきかを①と②の視点で検討していきましょう。
損害額は適切か?
損害のうち請求を受けているのは①修理費、②シャーシの時価額、③廃車費用です。これらの修理費が適切であるかを検討します。
修理費について
今回、会社は修理費として52万4,942円を請求しています。
しかし、会社の主張する52万4,942円の修理費が適切な金額であるかが定かではありません。必要な範囲を超えた修理費を計上している可能性もあります。
損害として認められる修理費は、必要かつ相当な範囲のものに限られます。
また、自損事故によって52万4,942円の修理費が必要となったとしても、この修理費全てが必ず事故の損害と認められるわけではありません。
事故当時のトラクターの時価額と買替諸費用が修理費用を下回っている場合、たとえ修理が物理的に可能であったとしても、この時価額等を超えた修理費用は損害として認められません。つまり、トラクターの時価額等の限度で認められます。
トラクター等の特殊車両の時価額については、
・中古車サイトの販売価格
・中古車業者の査定書
・減価償却法による算出
・全国技術アジャスター協会発行の「建設車両・特殊車両標準価格表」
などの情報を参考に算出します。
そのため、会社の請求に対する対応として、拙速な回答は控え、修理費の内容やその金額、トラクターの時価額を十分精査した上で、会社の請求に対して回答していくことが重要です。
シャーシについて
会社は、新品のシャーシの時価額を請求しています。
しかし、時の経過や使用による損耗等によって、シャーシそれ自体の価値は下がっていきます。
現に、今回のシャーシは、車検にも通らない程にかなり劣化していたわけですから、事故当時の価値は、新品価格よりも下回る金額であったと予想できます。そのため、自損事故によってシャーシが使用不能となったとしても、新品の価格を請求することはできません。
請求できる金額は、シャーシそれ自体の中古価格に限られます。
廃車費用について
自損事故によって、トラクターが全損となっていない場合には、廃車費用の請求は認められません。なぜなら、事故によって車両が全損となっていない以上、事故と廃車費用との間に因果関係が認められないからです。
他方で、自損事故によって、トラクターが全損となった場合には、廃車に伴う費用の一部は損害として認められます。
そのため、廃車費用の請求に対しては、前提として車両が全損となっているのかを確認した上で、全損となっているのであれば、異なる費用が混在していないかなど、廃車費用の金額が適切かを確認します。