(※写真はイメージです/PIXTA)

10年ぶりとなる日銀総裁の交代で、黒田東彦氏の後任に元日銀審議委員で経済学者の植田和男氏を起用する方針を固めました。日銀の異次元緩和路線は新たな局面を迎えることになります。ジャーナリストの田村秀男氏が著書『日本経済は再生できるか 「豊かな暮らし」を取り戻す最後の処方箋』(ワニブックスPLUS新書)で解説します。

「家計の許容度」で黒田総裁の発言が炎上

■投機マネーが世界を分断させる

 

ウクライナ産の小麦は、主に北アフリカや南アジアに輸出されてきました。その輸出量が、ウクライナ戦争の影響で半分以下にまで激減するとの予想が早々に流れました。

 

世界的に需要は減らないのに供給だけが減るのですから、当然、国際価格は上がります。国際商品市場相場が高騰し、貧しい国は買えず、国民は飢えに苦しみます。それは道義に反します。

 

ならば、ウクライナの輸出業者は貧困国に限って大幅に値引きすべきでしょうか。それはあり得ません。その場合、ウクライナの輸出業者も農家も得べかりし収益を失います。すると、ウクライナの農家が困窮化するでしょう。国際相場の高騰による負担を特定国にだけ押し付けるのは不公正極まりないのです。

 

一物一価の法則は冷徹そのもので、大きな痛みを人々に与えます。一国の内部でもそうです。しかし、そういう弊害を軽くするのが政治であり、弱者救済のセーフティネットワークなのです。まともな国では、そのための法制度の枠組みが整備されています。

 

貧しい国向けに国際相場よりも安い価格で供給する行為は、商取引ではなく、政治、外交上の判断です。人道上、支援が必要なら、先進国が経済援助する。それが国際的なコンセンサスです。そのために国連や世界銀行があり、先進国を中心とする途上国支援を求めるのです。

 

しかし、国際社会は共同体としての連帯感に欠け、食料価格高騰には付いていけません。夥しい数の犠牲者、餓死者を生むばかりか、暴動を多発させるでしょう。一物一価のグローバリゼーションは格差を広げ、国民、さらに世界を分断させる要因を内包し、膨らますのです。

 

■いちばん深刻なのは日本

 

一物一価の法則が徹底していますから、ウクライナ侵攻の影響による国際的な値上がりは日本にも必ず影響をもたらします。それ以前から米欧ではインフレが顕著になっていましたが、これにも日本は無関係ではいられません。日本が物価高になっていくのは、投機マネーが、前述したような一物一価転じて全物一相場で地球を覆う現代では、避けようのない流れです。

 

ただし、物価が上がっても、それに見合うだけの賃金上昇があれば問題ありません。単純に言えば、物価が1パーセント上がるのに合わせて賃金も1パーセント上がれば、物価の上昇分を賃金の上昇で吸収できるのです。

 

物価が1パーセント上がっているのに賃金の上昇が0パーセントなら、賃金は増えないのに家計支出は増えるわけですから、生活は苦しくなります。物価が上がっても、同じくらい賃金が上がれば生活は苦しくなりません。物価が上がっても、それ以上に賃金が上がれば、むしろ生活は楽になります。

 

しかし、そうはなっていないところが、日本の大問題なのです。2022年6月6日の講演で黒田東彦日銀総裁が、物価高について「家計の値上げ許容度が高まっている」と発言したことで、ネット上で批判が集中し、いわゆる「炎上」の状態になりました。

 

物価上昇について国民の不安と不満の声が高まっている最中に、国民が物価高を許容しているかのような発言をしてしまったわけで、その認識の甘さに批判が集中しました。国民は物価高を許容していないし、かなり不満をもっていることの表れです

 

あまりにも国民感覚と乖離した発言だったため、翌7日と8日に国会でも追及される事態となり、黒田総裁は「適切な言い方ではなかった」と釈明して発言を撤回することになります。

 

次ページ消費増税が日本経済の低迷を加速した

本連載は田村秀男氏の著書『日本経済は再生できるか 「豊かな暮らし」を取り戻す最後の処方箋』(ワニブックスPLUS新書)より一部を抜粋し、再編集したものです。

日本経済は再生できるか

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田村 秀男

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