(※写真はイメージです/PIXTA)

超高齢社会の昨今、自宅で診察や治療が受けられる「在宅医療」のニーズは高まるばかりです。しかし、高い志や意欲のある一部を除いて、特に若手のあいだでは「在宅医療を専門にしたい」と考える医師が少ないと、ねりま西クリニックの大城堅一院長はいいます。ニーズが高まる一方で在宅医が増えないのはなぜなのか、大城院長が解説します。

小規模クリニックの経営を左右する医師の雇用

在宅医を増やすというのは、実はそれほど簡単ではありません。

 

医師は高度専門職であり、常勤医であれば報酬も高額になります。そのため小規模のクリニックにとって、医師を1人雇うことは経営を左右しかねません。医師の報酬をまかなえるだけの患者を新規に獲得できなければ、医師の給与で経営が圧迫されてしまいます。

 

そのため真面目で良心的な開業医ほど、手を広げたがらない傾向があるように感じます。私の感覚でいえば外来診療の合間に在宅医療を行うような施設では、医師1人あたり在宅患者20人前後までが無理のない範囲ではないかと思います。

 

日本医師会総合政策研究機構が2017年に行った「診療所の在宅医療機能調査」では、1施設あたりの平均患者数は32.4件です。最も多いのが「1~5件」(32.0%)、次いで「10~19件」(16.4%)となっていますから、だいたい実状に即した数値だと思います。

 

地元・練馬区の在宅医療クリニックも、医師1人で外来の合間に在宅患者20人くらいを診ているところと、在宅専門で医師1人あたり患者100人ほどを診ているところに、大別されるようになってきています。小規模の在宅医療クリニックの現実を見れば、限られた少数の患者しか対応できないとしてもやむを得ないかもしれません。

 

しかしこのままでは、在宅医療の裾野の拡大が進まず、在宅医療を受けたくても受けられない高齢者が増えるのは明白です。

在宅医療に携わりたい医師ばかりではない

また小規模クリニックで在宅医を募集したとしても、なかなか人材が集まらないという問題もあります。

 

日本は諸外国に比べ会社員の給与がこの数十年、低いままです。医師の世界もそれは例外ではなく、昔に比べるとむしろ待遇は悪化しています。

 

これは私が医師になった30年前頃から生じていた傾向ですが、最近はそれがより顕著になっています。待遇への不満などから病院勤務をしていた医師が退職してしまうケースも増えています。結果、医師の人材派遣事業が活況を呈しています。

 

ただそうした人材派遣業者にクリニック勤務の在宅医の募集をかけても、優秀な人材がすぐに確保できるわけではありません。

 

そもそも在宅医療を専門にしたいという医師は決して多くありません。病院勤務に慣れた医師にとって在宅医療はまったく環境が異なります。

 

次ページ若手医師が「在宅医」になりたがらないワケ

※本連載は、大城堅一氏の著書『自宅で死を待つ老人たち』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

自宅で死を待つ老人たち

自宅で死を待つ老人たち

大城 堅一

幻冬舎メディアコンサルティング

最期まで充実して「生きる」ために 超高齢社会における在宅医療の 新たな可能性を説く―― 在宅医療は“ただ死ぬのを待つだけの医療"ではない。 患者が活き活きと自宅で過ごし、 外来と変わらない高度な医療を受けられ…

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