(※写真はイメージです/PIXTA)

亡くなった男性の相続人は、同居の長女と、勘当され消息不明となった長男の2名。男性は「長女にすべて相続させる」との遺言を残していましたが、記載ミスがあり、無効となってしまいます。そのため、相続手続きをするにあたり長男の財産管理人の選任手続きをしようとしたところ、ある問題が発覚し…。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに、生前対策について解説します。

借金癖のある兄、堪忍袋の緒が切れた父

今回の相談者は、60代の山田さんです。亡くなった父親の相続の件で困っていると、筆者のもとに訪れました。山田さんは20代で結婚し実家を離れ、夫の出身県で暮らしていましたが、10年前に山田さんの母親が亡くなり、父親が1人暮しになったことから、夫婦で山田さんの実家に戻って同居していました。山田さんには兄がひとりいるのですが、進学のために家を離れ、遠方に就職して以降、山田さんはほとんど会っていないということです。

 

「兄は20代で結婚し、子どもも2人生まれたそうですが、その後すぐ離婚したと聞いています。じつは兄には借金癖がありまして…。会社員になってからも、消費者ローンの返済ができずに父が肩代わりしたことが何度かあり、そのたびに父が激しい口調で叱責していたのを覚えています。おしまいには〈もう後始末はごめんだからな〉と…。離婚したのも、生活費の使い込みと借金だと、母から聞きました」

 

父親から叱責されても、妻から愛想をつかされても、山田さんの兄の生活態度は変わらなかったようです。

 

「兄は離婚後すぐ、実家へお金の無心のためにやってきたんです。激怒した父は、玄関先のホウキで兄を追い払い、通りの向こうまで追い立てました。それ以降、兄からは連絡がなく、音信不通なのです」

 

その間、母親が亡くなり、父親も亡くなりました。しかし、知らせるすべがない状態になっています。

父親は遺言書を残してくれたが…

山田さんは、父親の相続手続きをしたいと考えています。遺産は、自宅敷地と建物、1,000万円程度の預貯金で、山田さんと兄の相続人2人なら、相続税の申告が不要な額でした。

 

父親は自筆の遺言書を残しており、「自宅の土地と建物と預金は山田さんに」と書いてくれています。父親の意思は、音信不通で、すでに何度も援助してきた長男に渡す財産はないということだったのでしょう。

 

筆者は、家庭裁判所で自筆遺言書の検認手続きをするようにアドバイスをし、最初の相談は終わりました。

 

ところが、その遺言書の問題が判明しました。

 

山田さんの父親の自宅敷地は二筆になっており、本当なら2つとも明記しないといけなかったのですが、片方の記載がもれていたのです。筆者は提携先の司法書士に依頼し、遺言書で登記できる方法を法務局に相談してみましたが、やはり番地の記載がないと登記できないという結論に至りました。

「財産管理人の選任」がとん挫した理由

司法書士は、兄と遺産分割協議をする方法をアドバイスしてくれました。音信不通の兄に代わって遺産分割協議をするには、家庭裁判所に兄の財産管理人を選任してもらい、代理人と山田さんが遺産分割協議をするのです。これが最も現実的な方法でした。

 

財産管理人の候補は、本来なら兄の相続人となる兄の子どもが適任なのですが、懸命に探し出してようやく連絡を取ったところ、顔も知らない父親のことには関わりたくないという回答でした。

 

そうなると、登記を担当する司法書士が財産管理人になるという選択肢も出てきます。そこで、司法書士を財産管理人として家庭裁判所に申し立てを行いました。

 

ところが、調査段階で兄が運転免許を更新している事実が発覚したのです。本人の生存が確認されたなら、財産管理人選任の申し立ては取り下げるしかありません。

 

なんとか兄に連絡をつけ、遺産分割協議をしたいところですが、結局、兄とは連絡が取れず、遺産分割協議を進めることができない状況となっています。

自筆の遺言書は要注意

この事態を解決するには、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立て、兄に協力してもらうか、審判で山田さんが相続できるようにするなどの方法となるのですが、いずれにしろ、時間も費用もかかります。

 

このように、せっかく残した自筆の遺言書も、不備があっては問題解決になりません。このことから、遺言書の作成は専門家に依頼し、問題がないかしっかり確認することが重要なのです。おすすめなのは公正証書遺言です。これなら確実であり、安心だといえます。

相続問題の解決の現場からアドバイス

自筆の遺言書は思い立った時にすぐ作成できるのがメリットですが、万一不備があっては役割を果たせません。今回の山田さんのケースのように、不動産の記載についてはとくに注意が必要です。そのため、自筆で作成した遺言書は専門家に確認を依頼するか、もしくは最初から公正証書遺言にしておくほうが安心です。多少のお金はかかりますが、不備が起きた場合を考えれば、そこまで重い負担ではありません。

 

山田さんのケースのように、音信不通の相続人がいるなど、事前に問題がある場合は、なおさら遺言書の作成が重要になります。

 

 

※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

 

 

曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士

 

◆相続対策専門士とは?◆

公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。

 

「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。

本記事は、株式会社夢相続のサイト掲載された事例を転載・再編集したものです。

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