(※写真はイメージです/PIXTA)

環境的要因と遺伝的要因から最適な治療を導き、医療の質を向上させる新たな概念である「ペイシェント・ベイスド・メディスン(PBM)」は、従来の標準化された治療方針では見落とされてしまう、遺伝情報や患者個々の出身地や生活歴などの背景を考慮した治療を行うものです。東大病院に勤務後、現在は宮崎県で年間10万人を超す外来患者が殺到する眼科病院の理事を務める眼科医・宮田和典氏が、次世代医療の要と成り得る「ペイシェント・ベイスド・メディスン(PBM)」について詳しく解説します。

再手術でレンズを交換していない瞳の視力まで回復したのは何故か?

患者の眼内レンズや眼の状態を確認し、両眼にそれぞれ異なる、かつ間違った度数のレンズが入っていることによる不定愁訴だろうと考えた私たちは、2焦点の方のレンズを摘出し、単焦点レンズに交換しました。

 

もちろん交換の際には正しい度数計算を行い、見え方も修正しました。

 

レンズ交換後、しばらくして、患者の頭痛や吐き気は改善しました。まだ多少のめまいは残っていたものの、不定愁訴の大半を改善させることができたのです。

 

ここまでは想定内の結果です。ところがさらにもう一つ、驚くべきことが起こりました。

 

レンズを摘出・交換した眼の視力は当然のことながら回復し、0.4から1.2にまで上昇しました。ところが何も手を加えていない方の眼、もともと単焦点レンズが入っていた方の眼の視力も0.4であったものが0.7にまで回復したのです。

 

この患者のケースから、私たちは一つの仮説を立てました。それは「眼内レンズを挿入した患者でも、従来は起こらないと考えられてきた眼精疲労が起こるのではないか」ということです。

 

何も手を加えていない方の眼の視力が回復したのは、眼精疲労が改善したからではないかと考えました。この患者は間違った度数の異なる焦点のレンズを挿入されていたため、絶え間なく毛様体が働き、過緊張になって眼精疲労が起こっていた、そしてそれを改善したことによって、視力が回復したと考えられるのです。

人工レンズを入れている人の眼精疲労を計測する実験

また、眼内レンズを入れた眼の眼精疲労を計測する方法を模索しているなかで、極めて興味深い論文に出会いました。

 

もともと、眼内レンズは人工物であるため、レンズそのものは伸び縮みをせず毛様体もはたらかず、過緊張による眼精疲労は少ないと考えられていました。しかし2008年に公表された論文により、眼内レンズを入れた人であっても、物を見ようとして焦点を合わせるときには、わずかながら毛様体や眼内レンズが動いていることが明らかにされました。

 

調節微動解析装置は、毛様体という筋肉が緊張しているとき、HFCと呼ばれる調節微動高周波の出現頻度が高くなるため、眼精疲労が起こっている可能性が高いことを示します。そのため、眼内レンズを入れた眼であっても、毛様体が動いているのであれば、調節微動を測定することにより、眼精疲労を計測できるのではないかと私たちは考えました。

 

そこで、単焦点眼内レンズを入れた124人を対象に、白内障手術後の2ヵ月と6ヵ月後に調節微動解析装置を使って眼精疲労の計測を実施しました。

次ページ白内障手術後でも眼精疲労が起こることが実験で証明

※ 本連載は、宮田和典氏の著書『診断治療の質を上げる ペイシェント・ベイスド・メディスン』(幻冬舎メディアコンサルティング)から一部を抜粋し、再構成したものです

診断治療の質を上げる ペイシェント・ベイスド・メディスン

診断治療の質を上げる ペイシェント・ベイスド・メディスン

宮田 和典

幻冬舎メディアコンサルティング

患者の出身地や食生活によって、かかりやすい病気、重症度が変わる――。 環境的要因と遺伝的要因から最適な治療を導く。医療の質を向上させる新たな概念「PBM」とは? 1990年代にカナダで提唱された「エビデンス・ベイスド…

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