(※写真はイメージです/PIXTA)

環境的要因と遺伝的要因から最適な治療を導き、医療の質を向上させる新たな概念である「ペイシェント・ベイスド・メディスン(PBM)」は、従来の標準化された治療方針では見落とされてしまう、遺伝情報や患者個々の出身地や生活歴などの背景を考慮した治療を行うものです。東大病院に勤務後、現在は年間10万人を超す外来患者が殺到する眼科病院の理事を務める眼科医・宮田和典氏が、次世代医療の要と成り得る「ペイシェント・ベイスド・メディスン(PBM)」について詳しく解説します。

激痛が起こる水疱性角膜症

皆さん、水疱性角膜症をご存知でしょうか。水疱性角膜症とは、角膜が濁る病気です。角膜が濁ってむくみ、視力が低下してしまいます。また角膜の表面に水ぶくれができて、水ぶくれが破れると激痛が起こります[図表1]

 

[図表1]水疱性角膜症(クロスリンキング前)

 

この病気の治療法は基本的には角膜移植しかありません。しかし移植するには角膜バンクから角膜の提供を受けるなど、手術までにある程度の期間が必要であり、すぐに手術をすることはできません。そのため患者は移植を受けられるまでの間、激痛に耐えなければならないのです。

 

私たちは、この水疱性角膜症の痛みをクロスリンキングで軽減できないかと考えました。

 

クロスリンキングの角膜が硬くなる作用を応用することで、角膜のむくみが抑えられ、痛みが和らぐのではないかと考えたのです。

87歳・女性の症例。右眼に繰り返す痛みが…

症例を紹介します。

 

87歳の女性で、過去に他院で白内障の手術をした経験があった患者の例です。右眼に繰り返す痛みを感じ、私の病院を受診されました。

 

診察の結果、水疱性角膜症を発症していることが分かりました。

 

この患者は受診時点で右眼の視力が落ちていましたが、本人からは「年齢を考えると、視力が落ちるのはかまわない。ただ、痛いのだけはつらいからなんとかしてほしい」という訴えでした。

 

そこで痛みを取ることを目的に角膜移植をすることになり、移植の待機中に痛みを取るためにクロスリンキングを行いました。

 

するとクロスリンキングを行ってから1週間後から少しずつ角膜の中心が薄くなり、治療後1ヵ月から半年までその状態を保つことができたのです。

 

痛みについても治療後1週間後から軽くなり始め、フォローしていた半年後の時点まで痛みの軽減は保たれていました。痛みの強さや頻度を0~10のスコアで患者自身に評価してもらったところ、手術前の痛みの強さと頻度が5であったのに対して、手術後は0にまで軽減していました[図表2]

 

[図表2]水疱性角膜症(クロスリンキング後6ヵ月)

 

この患者のケースでは、視力の回復は目的としておらず、痛みの軽減だけが目的で移植をする予定でした。ところがクロスリンキングによって痛みを軽減することができたため、移植手術をしなくても済むようになったのです。

次ページクロスリンキング治療を受けた14人全員の痛みが軽減

※ 本連載は、宮田和典氏の著書『診断治療の質を上げる ペイシェント・ベイスド・メディスン』(幻冬舎メディアコンサルティング)から一部を抜粋し、再構成したものです

診断治療の質を上げる ペイシェント・ベイスド・メディスン

診断治療の質を上げる ペイシェント・ベイスド・メディスン

宮田 和典

幻冬舎メディアコンサルティング

患者の出身地や食生活によって、かかりやすい病気、重症度が変わる――。 環境的要因と遺伝的要因から最適な治療を導く。医療の質を向上させる新たな概念「PBM」とは? 1990年代にカナダで提唱された「エビデンス・ベイスド…

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